【No350】高額療養費制度の見直しについて
令和6年12月12日、厚生労働省は社会保障審議会医療保険部会で高額療養費制度の見直しの方向性について公表しました。今後、政府の予算案編成で、自己負担上限額をどこまで引き上げるのか等を決定していく予定です。今回の医業経営FPNewsでは当該制度の見直しの概要についてご案内します。
1.高額療養費制度
高額療養費制度とは、家計に対する医療費の自己負担が過重なものとならないよう、医療機関の窓口において医療費の自己負担を支払っていただいた後、月ごとの自己負担限度額を超える部分について、事後的に保険者から償還払い(※)される制度です。また、自己負担限度額は、被保険者の所得に応じて設定されます。
※入院の場合、医療機関の窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめる現物給付化の仕組みを導入し、外来でも、平成24年4月から、同一医療機関で自己負担限度額を超える場合に現物給付化を導入しています。
厚生労働省「第189回社会保障審議会医療保険部会【資料2】医療保険制度改革について」p14より引用
2.高額療養費制度の見直しの方向性(案)のイメージ
(1)社会経済情勢の変化
・高齢化の進展や医療の高度化、高額薬剤の開発・普及等により高額療養費の総額が年々増加(総医療費の6~7%相当)し、医療保険財政に大きな影響を与えている。一方、近年、高額療養費の自己負担限度額の上限は実質的に維持されてきたことなどにより、医療保険制度における実効給付率は上昇。
・他方で、前回実質的な見直しを行った約10年前(平成27年)と比較すると、物価上昇や賃上げの実現等を通じた世帯主収入・世帯収入の増加など、経済環境も大きく変化している。また、足下では、生活必需品をはじめとした継続的な物価上昇が続く中で、現役世代を中心に保険料負担の軽減を求める声も多くある。
(2)これまでの議論を踏まえた見直しの方向性(案)
・このように、物価・賃金の上昇など経済環境が変化する中でも、高額療養費の自己負担限度額の上限が実質的に維持されてきたこと等を踏まえ、セーフティネットとしての高額療養費の役割を維持しつつ、の軽減を図る健康な方を含めた全ての世代の被保険者の保険料負担観点から、①高額療養費の自己負担限度額の見直し(一定程度の引き上げ)、②所得区分に応じたきめ細かい制度設計とする観点からの所得区分の細分化(住民税非課税区分を除く所得区分を概ね三区分に細分化)を行う。
・その際、能力に応じて全世代が支え合う全世代型社会保障を構築する観点から負担能力に応じた負担を求める仕組みとする。具体的には、平均的な収入を超える所得区分については、平均的な引き上げ率よりも高い率で引き上げる一方で、平均的な収入を下回る所得区分の引き上げ率は緩和するなど、所得が低い方に対して一定の配慮を行う。併せて、今回の見直しにより必要な受診が妨げられることのないよう、丁寧な周知等を徹底する。加えて、予防・健康づくりの重要性の再認識に向けた働きかけを行う。
・施行時期については、国民への周知、保険者・自治体の準備期間(システム改修等)などを考慮しつつ、被保険者の保険料負担の軽減というメリットをできる限り早期に享受できるようにする観点から、一定の周知・準備期間を設けた上で、システム的にも十分対応可能な範囲から施行していく。(早ければ来年夏以降からの施行を想定)
・なお、高額療養費の引き上げが家計や受療行動等に与える影響については、その分析のために必要なデータを把握していくための方策等について、今後検討していく。
厚生労働省「第189回社会保障審議会医療保険部会【資料2】医療保険制度改革について」p8より引用
3.高齢者の高額療養費における外来特例※について
外来特例を見直した場合の影響について、機械的なモデル試算の結果を示しましたが、外来特例について廃止を含めた抜本的な見直しを行うべきといった意見が出る一方で、当面は存続させるべきなどの慎重意見も数多く出ており、部会の委員で意見が分かれています。
※外来特例の経緯
70歳以上の高齢者の外来特例は、平成14年10月に、それまで設けられていた外来の月額上限額を廃止し、定率1割負担の徹底を行った際に、・ 高齢者は外来の受診頻度が若年者に比べて高いこと・ 高齢者の定率1割負担を導入してから間もない(平成13年から実施)こと等を考慮して設けられたものです。
平成29・30年の高額療養費制度の見直しの際に、直近の患者の医療費の分布を基に一般区分の限度額を引き上げるとともに、年間の負担額が変わらないよう外来の年間上限を設定(14.4万円)しました。さらに、平成30年に、現役並み所得者の細分化に伴い、世代間の負担のバランス・負担能力に応じた負担の観点から、現役並み所得者の外来特例を廃止しました。
厚生労働省「第189回社会保障審議会医療保険部会【資料2】医療保険制度改革について」p24より参照
(文責:税理士法人FP総合研究所)