【No319】ベースアップ評価料の概要

 令和6年6月1日から施行される令和6年度診療報酬改定において、医療従事者の賃上げを目的とした「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)、(Ⅱ)」、「入院ベースアップ評価料」が新設されます。今回の医業経営FPNewsではこのベースアップ評価料の概要についてご案内します。

1.はじめに

昨今の食材料費、光熱費をはじめとする物価高騰の状況、30年ぶりの高水準となる賃上げの状況などといった経済社会情勢は、医療分野におけるサービス提供や人材確保にも大きな影響を与えています。

こうした中、令和6年度診療報酬改定においては、医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取組として、特例的な対応が行われます。具体的な賃上げのイメージは下図のとおりです。

厚生労働省保険局医療課令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】」より画像引用

ベースアップ評価料の算定要件は、当該評価料による収入を原則、全額ベースアップ等に充てることです。その上で、さらに今般の報酬措置以外の収入や、賃上げ促進税制も活用しながら、令和6年度に+2.5%、令和7年度に+2.0%のベースアップを実施する必要があります。

賃上げ促進税制とは、たとえば中小企業の場合、全雇用者の給与等支給額の増加額の最大45%の税額控除が可能となる制度です。詳細につきましては、企業経営FPNews「賃上げ促進税制」で紹介しておりますので、併せてご覧ください。

2.ベースアップ評価料とは

ベースアップ評価料とは、看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種(40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者を除く)について賃上げを実施していくことを目的とした評価料であり、具体的には以下の①~④が新設されます。

①外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)及び(Ⅱ)

②歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)及び(Ⅱ)

③訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)及び(Ⅱ)

④入院ベースアップ評価料

今回の医業経営FPNewsでは①をピックアップしてご案内します。②③④については下記URLの8ページ及び、13~19ページをご確認ください。

厚生労働省保険局医療課令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】」参照

3.外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)

外来医療又は在宅医療を実施している医療機関(医科)において、勤務する看護職員、薬剤師その他の医療関係職種の賃金の改善を実施している場合に算定が可能となります。保険点数及び算定要件等は以下のとおりです。

[保険点数]

 外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)(1日につき)

1 初診時 6点

2 再診時等 2点

3 訪問診療時

 イ  同一建物居住者等以外の場合 28点

 ロ  イ以外の場合 7点

[算定要件]

(1) 主として医療に従事する職員(医師及び歯科医師を除く。)の賃金の改善を図る体制につき別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、入院中以外の患者に初診、再診又は訪問診療を行った場合に、所定点数を算定する。

(2) 1については、初診料、小児科外来診療料(初診時)又は小児かかりつけ診療料(初診時)を算定した日に限り、1日につき1回算定できる。

(3) 2については、再診料、外来診療料、短期滞在手術等基本料1、小児科外来診療料(再診時)、外来リハビリテーション診療料、外来放射線照射診療料、地域包括診療料、認知症地域包括診療料、小児かかりつけ診療料(再診時)又は外来腫瘍化学療法診療料を算定した日に限り、1日につき1回算定できる。

(4) 3のイについては、在宅患者訪問診療料(Ⅰ)の同一建物居住者以外の場合又は在宅がん医療総合診療料(ただし、訪問診療を行った場合に限る。)を算定した日に限り、1日につき1回算定できる。

(5) 3のロについては、在宅患者訪問診療料(Ⅰ)の同一建物居住者の場合又は在宅患者訪問診療料(Ⅱ)を算定した日に限り、1日につき1回算定できる。

[施設基準の概要]

(1) 外来医療又は在宅医療を実施している保険医療機関であること。

(2) 主として医療に従事する職員(医師及び歯科医師を除く。以下「対象職員」という。)が勤務していること。象職員は下に示す職員であり、専ら事務作業(医師事務作業補助者、看護補助者等が医療を専門とする職員の補助として行う事務作業を除く)を行うものは含まれない。

(3) 当該評価料を算定する場合は、令和6年度及び令和7年度において対象職員の賃金(役員報酬を除く。)の改善 (定期昇給によるものを除く。)を実施しなければならない。

(4) (3)について、当該評価料は、対象職員のベア等及びそれに伴う賞与、時間外手当、法定福利費(事業者負担分等を含む)等の増加分に用いること。ただし、ベア等を行った保険医療機関において、患者数等の変動等により当該評価料による収入が上記の支給額を上回り、追加でベア等を行うことが困難な場合であって、賞与等の手当によって賃金の改善を行った場合又は令和6年度及び令和7年度において翌年度の賃金の改善のために繰り越しを行う場合(令和8年12月までに賃金の改善措置を行う場合に限る。)についてはこの限りではない。いずれの場合においても、賃金の改善の対象とする項目を特定して行うこと。なお、当該評価料によって賃金の改善を実施する項目以外の賃金項目(業績等に応じて変動するものを除く。)の水準を低下させてはならない。

(5) 令和6年度に対象職員の基本給等を令和5年度と比較して2.5%以上引き上げ、令和7年度に対象職員の基本給等を令和5年度と比較して4.5%以上引き上げた場合については、40歳未満の勤務医及び勤務歯科医並びに事務職員等の当該保険医療機関に勤務する職員の賃金(役員報酬を除く。)の改善(定期昇給によるものを除く。) を実績に含めることができること。

(6) 「賃金改善計画書」及び「賃金改善実績報告書」を作成し、定期的に地方厚生(支)局長に報告すること。

厚生労働省保険局医療課令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】」参照

4.外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)

外来医療又は在宅医療を実施し、入院医療を実施していない診療所であって、勤務する看護職員、薬剤師その他の医療関係職種の賃金のさらなる改善を必要とする医療機関において、賃金の改善を実施している場合に算定が可能となります。保険点数及び算定要件等は以下のとおりです。

[保険点数]

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)(1日につき)

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)1

 イ 初診又は訪問診療を行った場合 8点

 ロ 再診時等 1点

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)2

 イ  初診又は訪問診療を行った場合 16点

 ロ  再診時等 2点

 ↓

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)8

 イ 初診、又は訪問診療を行った場合 64点

 ロ 再診時等 8点

[算定要件]

(1) 主として医療に従事する職員(医師及び歯科医師を除く。以下「対象職員」という。)の賃金の改善を図る体制につき別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、入院中の患者以外の患者に対して診療を行った場合に、当該基準に係る区分に従い、それぞれ所定点数を算定する。

(2) イについては、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の1(初診時)若しくは3(訪問診療時)を算定した場合に、1日につき1回に限り算定できる。

(3) ロについては、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の2(再診時等)を算定した場合に、1日につき1回に限り算定できる。

[施設基準の概要]

(1) 入院基本料、特定入院料又は短期滞在手術等基本料(短期滞在手術等基本料1を除く。)を算定していない保険医療機関であること。

(2) 外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)を届け出ている保険医療機関であること。

(3) 外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)及び歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)により算定される点数の見込みの10倍が、対象職員の給与総額の1.2%未満であること。

(4) 下記の式【A】に基づき、該当する区分のいずれかを届け出ること。ただし、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)及び歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)の施設基準の届出を行う場合は、同一の区分を届け出ること。

(5) (4)について、届出に当たっては、別表に示した期間において【A】の算出を行うこと。また、別表のとおり、毎年3、6、9、12月に上記の算定式により新たに算出を行い、区分に変更がある場合は算出を行った月内に地方厚生(支)局長に届出を行った上で、翌月から変更後の区分に基づく点数を算定すること。ただし、前回届け出た時点と比較して、「対象職員の給与総額」、「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)及び歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)により算定される点数の見込み」、「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)及び歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)の算定回数の見込み」及び【A】のいずれの変化も1割以内である場合においては、区分の変更を行わないものとすること。新規届出時は、直近の別表の「算出を行う月」における対象となる期間の数値を用いること。ただし、令和6年6月3日までに届出を行った場合は、令和6年6月に区分の変更を行わないものとすること。

(6) 当該評価料を算定する場合は、令和6年度及び令和7年度において対象職員の賃金(役員報酬を除く。)の改善(定期昇給によるものを除く。)を実施しなければならない。

(7) (6)について、当該評価料は、対象職員のベア等及びそれに伴う賞与、時間外手当、法定福利費(事業者負担分等を含む)等の増加分に用いること。ただし、ベア等を行った保険医療機関において、患者数等の変動等により当該評価料による収入が上記の支給額を上回り、追加でベア等を行うことが困難な場合であって、賞与等の手当によって賃金の改善を行った場合又は令和6年度及び令和7年度において翌年の賃金の改善のために繰り越しを行う場合(令和8年12月までに賃金の改善措置を行う場合に限る。)についてはこの限りではない。いずれの場合においても、賃金の改善の対象とする項目を特定して行うこと。なお、当該評価料によって賃金の改善を実施する項目以外の賃金項目(業績等に応じて変動するものを除く。)の水準を低下させてはならない。

(8)  「賃金改善計画書」及び「賃金改善実績報告書」を作成し、定期的に地方厚生(支)局長に報告すること。

(9) 常勤換算2人以上の対象職員が勤務していること。ただし、医療資源の少ない地域に所在する保険医療機関にあっては、当該規定を満たしているものとする。

(10) 当該保険医療機関において、以下に掲げる社会保険診療等に係る収入金額の合計額が、総収入の80%を超えること。

ア 社会保険診療(租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第二十六条第二項に規定する社会保険診療をいう。以下同じ。)に係る収入金額(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)に係る患者の診療報酬(当該診療報酬が社会保険診療報酬と同一の基準によっている場合又は当該診療報酬が少額(全収入金額のおおむね百分の十以下の場合をいう。)の場合に限る。)を含む。)

イ 健康増進法(平成十四年法律第百三号)第六条各号に掲げる健康増進事業実施者が行う同法第四条に規定する健康増進事業(健康診査に係るものに限る。以下同じ。)に係る収入金額(当該収入金額が社会保険診療報酬と同一の基準により計算されている場合に限る。)

ウ 予防接種(予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)第二条第六項に規定する定期の予防接種等その他医療法施行規則第三十条の三十五の三第一項第二号ロの規定に基づき厚生労働大臣が定める予防接種(平成二十九年厚生労働省告示第三百十四号)に規定する予防接種をいう。)に係る収入金額

エ 助産(社会保険診療及び健康増進事業に係るものを除く。)に係る収入金額(一の分娩に係る助産に係る収入金額が五十万円を超えるときは、五十万円を限度とする。)

オ 介護保険法の規定による保険給付に係る収入金額(租税特別措置法第二十六条第二項第四号に掲げるサービスに係る収入金額を除く。)

カ 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第六条に規定する介護給付費、特例介護給付費、訓練等給付費、特例訓練等給付費、特定障害者特別給付費、特例特定障害者特別給付費、地域相談支援給付費、特例地域相談支援給付費、計画相談支援給付費、特例計画相談支援給付費及び基準該当療養介護医療費並びに同法第七十七条及び第七十八条に規定する地域生活支援事業に係る収入金額

 キ 児童福祉法第二十一条の五の二に規定する障害児通所給付費及び特例障害児通所給付費、同法第二十四条の二に規定する障害児入所給付費、同法第二十四条の七に規定する特定入所障害児食費等給付費並びに同法第二十四条の二十五に規定する障害児相談支援給付費及び特例障害児相談支援給付費に係る収入金額

 ク 国、地方公共団体及び保険者等が交付する補助金等に係る収入金額

厚生労働省保険局医療課令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】」参照

5.さいごに

令和6年6月診療分からの算定に当たっては、届出を令和6年5月2日から6月3日までに行っていただく必要があり、計画書や報告書などの様式は、厚生労働省「ベースアップ評価料等について」のページ内に公開されております。
また、評価料計算支援ツールも厚生労働省の「令和6年度診療報酬改定説明資料等について」のページ内に公開されております。算定要件等をよくご確認いただいた上で、今後の賃上げの参考にしてください。

(文責:税理士法人FP総合研究所)