【No282】「経済財政運営と改革の基本方針2023」について

 令和5年6月16日に「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」(骨太方針2023)が経済財政諮問会議での答申を経て、閣議決定されました。

 その中で、医療・福祉分野に関連のある項目が含まれておりますので、ピックアップしてご案内します。

1.新しい資本主義の加速

 第2章「新しい資本主義の加速」の中では労働市場改革による構造的な賃上げの実現と「人への投資」の強化、投資と経済社会改革の実行、少子化対策・こども政策の抜本強化などについて明記されています。

 以下、経済財政運営と改革の基本方針2023より抜粋

 一人一人が自らのキャリアを選択する時代となってきた中、職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自らの意思でリ・スキリングを行い、職務を選択できる制度に移行していくことが重要であり、内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、労働者が自らの選択によって労働移動できるようにすることが急務である。内部労働市場が活性化されてこそ、労働市場全体も活性化するのであり、人的資本こそ企業価値向上の鍵である。こうした考え方の下、「リ・スキリングによる能力向上支援」、「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」、「成長分野への労働移動の円滑化」という「三位一体の労働市場改革」を行い、客観性、透明性、公平性が確保される雇用システムへの転換を図ることにより、構造的に賃金が上昇する仕組みを作っていく。また、地方、中小・ 小規模企業について、三位一体の労働市場改革と並行して、生産性向上を図るとともに、 価格転嫁対策を徹底し、賃上げの原資の確保につなげる。

 「成長分野への労働移動の円滑化」については、失業給付制度において、自己都合による離職の場合に失業給付を受給できない期間に関し、失業給付の申請前にリ・スキリング に取り組んでいた場合などについて会社都合の離職の場合と同じ扱いにするなど、自己都合の場合の要件を緩和する方向で具体的設計を行う。また、自己都合退職の場合の退職金の減額といった労働慣行の見直しに向けた「モデル就業規則」の改正や退職所得課税制度の見直しを行う。さらに、求職・求人に関して官民が有する基礎的情報を加工して集約し、共有して、キャリアコンサルタントが、その基礎的情報に基づき、働く方々のキャリアア ップや転職の相談に応じられる体制の整備等に取り組む。

内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2023」4頁より引用

2.中長期の経済財政運営

 第4章「中長期の経済財政運営」のうち、2.持続可能な社会保障制度の構築の中で、持続可能な社会保障制度の方向性が示されています。こちらでは、医療費の地域格差半減のために、かかりつけ医制度の整備を行うことや、リフィル処方の活用、医業経営FPNewsNo281で取り上げた医療DXの推進などが明記されています。

 医療・介護サービスの提供体制については、今後の高齢者人口の更なる増加と人口減少に対応し、限りある資源を有効に活用しながら質の高い医療介護サービスを必要に応じて受けることのできる体制を確保する観点から、医療の機能分化と連携の更なる推進、医療・ 介護人材の確保・育成、働き方改革、医療・介護ニーズの変化やデジタル技術の著しい進展に対応した改革を早期に進める必要がある。 

 このため、1人当たり医療費の地域差半減に向けて、都道府県が地域の実情に応じて地域差がある医療への対応などの医療費適正化に取り組み、引き続き都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進するとともに、都道府県のガバナンス強化、かかりつけ医機能が発揮される制度整備の実効性を伴う着実な推進、地域医療連携推進法人制度の有効活用、地域で安全に分娩できる周産期医療の確保、ドクターヘリの推進、救急医療体制の確保、訪問看護の推進、医療法人等の経営情報に関する全国的なデータベースの構築を図る。実効性のある医師偏在対策、医療専門職のタスク・シフト/シェア、薬局薬剤師の対人業務の充実、対物業務の効率化、地域における他職種の連携等を推進する。その中で、医師が不足する地域への大学病院からの医師の派遣の継続を推進する。また、関係者・関係機関の更なる対応により、リフィル処方の活用を進める。 

 医療DX推進本部において策定した工程表に基づき、医療DXの推進に向けた取組について必要な支援を行いつつ政府を挙げて確実に実現する。マイナンバーカードによるオンライン資格確認の用途拡大や正確なデータ登録の取組を進め、2024年秋に健康保険証を廃止する。レセプト・特定健診情報等に加え、介護保険、母子保健、予防接種、電子処方箋、電子カルテ等の医療介護全般にわたる情報を共有・交換できる「全国医療情報プラッ トフォーム」の創設及び電子カルテ情報の標準化等を進めるとともに、PHRとして本人 が検査結果等を確認し、自らの健康づくりに活用できる仕組みを整備する。その他、新しい医療技術の開発や創薬のための医療情報の二次利活用、「診療報酬改定DX」による医療機関等の間接コスト等の軽減を進める。その際、医療DXに関連するシステム開発・運用主体の体制整備、電子処方箋の全国的な普及拡大に向けた環境整備、標準型電子カルテの整備、医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策等を着実に実施する。

内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2023」P37より引用

3.中立的な社会保障制度の構築

 上述の、第4章「中長期の経済財政運営」のうち、2.持続可能な社会保障制度の構築において、勤労者皆保険についても示されています。

 勤労者皆保険の実現、年齢や性別にかかわらず働き方に中立的な社会保障制度の構築に向け、企業規模要件の撤廃など短時間労働者への被用者保険の適用拡大、常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種の解消等について次期年金制度改正に向けて検討するほか、いわゆる「年収の壁」について、当面の対応として被用者が新たに106万円の壁を超えても手取りの逆転を生じさせない取組の支援などを本年中に決定した上で実行し、さらに、制度の見直しに取り組む。

内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2023」P39より引用

(文責:税理士法人FP総合研究所)