【No280】「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」の成立について
令和5年5月12日に参議院において、全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案が可決され、成立しました。医業経営FPNews No.256では、本法案の作成に向けた全世代型社会保障構築会議の論点整理についてご案内しましたが、本法案成立に伴い、改めて主な改正内容を参議院附帯決議とともにご案内します。
1.改正の趣旨
全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するため、出産育児一時金に係る後期高齢者医療制度からの支援金の導入、後期高齢者医療制度における後期高齢者負担率の見直し、前期財政調整制度における報酬調整の導入、医療費適正化計画の実効性の確保のための見直し、かかりつけ医機能が発揮される制度整備、介護保険者による介護情報の収集・提供等に係る事業の創設等の措置を講ずる。
厚生労働省「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」の成立について より引用
2.改正の概要
(1)こども・子育て支援の拡充【健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、高齢者の医療の確保に関する法律等】
①出産育児一時金の支給額を引き上げる(※)のみならず、支給費用の一部を用い、現役世代だけでなく後期高齢者医療制度も支援する仕組みを構築する。
(※)42万円→50万円に令和5年4月から引き上げ(政令)、出産費用の見える化を実施する。
②免除相当額を国・都道府県・市町村が負担することで、産前産後期間における国民健康保険料(税)を免除する。
附帯決議:後期高齢者支援金及び前期高齢者納付金の増大等により、財政運営が極めて困難な健康保険組合が急増しているため、特に財政状況が厳しい健康保険組合に対する継続的な財政支援を行うこと。
(2)高齢者医療を全世代で公平に支え合うための高齢者医療制度の見直し【健康保険法、高齢者の医療の確保に関する法律】
①後期高齢者負担率の設定方法について、後期高齢者の医療給付費を支える後期高齢者と現役世代の負担率の公平化を目指し、「後期高齢者一人当たりの保険料」と「現役世代一人当たりの後期高齢者支援金」の伸び率が同じとなるように見直しする。
附帯決議:現役並み所得の後期高齢者に係る医療費給付について公費負担が行われていないことで、現役世代が過重な負担を強いられていることを考慮し、後期高齢者医療制度における財源の在り方について検討を行うこと。
②前期高齢者の医療給付費を保険者間で調整する仕組みにおいて、被用者保険者については報酬水準に応じて調整する仕組みの導入等を行う。被用者保険者の後期高齢者支援金等の負担が大きくなる場合の財政支援の拡充や健保連が行う財政が厳しい健保組合への交付金事業に対する財政支援の導入を行う。
(3)医療保険制度の基盤強化等【健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、高齢者の医療の確保に関する法律等】
①都道府県医療費適正化計画について、都道府県ごとに保険者協議会を必置として計画の策定・評価に関与する仕組みを導入し、計画に記載すべき事項を充実させる。また、医療費適正化に向けた都道府県の役割及び責務の明確化等を行う。計画の目標設定においては、かかりつけ医機能の確保の重要性に留意し、効果的・効率的に組み合わせた医療・介護サービスを提供することとする。
附帯決議:都道府県に必置とされる保険者協議会について、保険者だけでなく、医療関係者が構成員として参画することを積極的に促すこと。実効性のある医療費適正化の取組として、複合的なニーズを有する高齢者への医療・介護の効果的・効率的な提供などを進めること。また、保険者協議会と社会保険診療報酬支払基金及び国民健康保険団体連合会の連携を進め、レセプト分析を通じた医療費適正化のエビデンスの収集等に努めること。
②医療費適正化や国保事務の標準化・広域化の推進に関する事項等を必須記載とし、都道府県が策定する国民健康保険運営方針の運営期間を法定化(6年)する。
附帯決議:第四期医療費適正化計画の策定や計画期間中の改訂においては、住民の健康増進等を通じた医療費の更なる適正化の推進を図る観点から、ロジックモデル等のツールの活用を促すことなどを検討し、PDCAサイクルに基づく計画の立案、評価及び見直しなど、実効的な計画の策定等が行われるよう努めること。
③退職被保険者の医療給付費等を被用者保険者間で調整する仕組みが経過措置として存続しているが、対象者の減少や保険者等の負担を踏まえて廃止する。
(4)医療・介護の連携機能及び提供体制等の基盤強化【地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律、医療法、介護保険法、高齢者の医療の確保に関する法律等】
①かかりつけ医機能について、医療・介護の各種計画に反映するため、国民への情報提供の強化や、かかりつけ医機能の報告に基づく地域での協議の仕組みを構築する。
附帯決議:新たに刷新・創設される医療機能情報提供制度及びかかりつけ医機能報告制度について、有識者等による検討の場やその構成員について、決定次第、明らかにすること。また、当該有識者等による検討結果や検討過程における議論の内容について、本法施行に先立ち、明らかにすること。
附帯決議:本法のかかりつけ医機能に関する制度改正については、同機能が発揮される第一歩として、全ての国民・患者がそのニーズに応じて同機能を有する医療機関を選択して利用できるよう、制度整備を速やかに進めること。また、同機能を有する医療機関に勤務しようとする者への処遇改善やキャリアパスの構築支援、教育及び研修の充実を図り、これらの者が増加するような取組を推進すること。
附帯決議:慢性の疾患を有する高齢者その他の継続的な医療を要する者については、かかりつけ医機能報告の対象範囲に障害児・者、医療的ケア児、難病患者を含めるなど適切に定め、将来的には継続的な医療を要しない者も含めて検討すること。
②医療保険者と介護保険者が被保険者等に係る医療・介護情報の収集・提供等を行う事業を一体的に実施することで、医療・介護サービスの質の向上を図る。また、介護保険者が行う当該事業を地域支援事業として位置付ける。
③経営情報に係るデータベースを整備するため、医療法人や介護サービス事業者に当該情報の報告義務を課す。
附帯決議:医療法人及び介護サービス事業者の経営情報に関するデータベースの整備においては、職種別の給与情報が可能な限り報告されるよう必要な取組を進めることで、医療・介護従事者の適切かつ的確な処遇改善を図る。また、当該情報に係る本法施行後の報告状況を勘案しながら、将来の報告義務化を含めた対応を検討すること。なお、当該データベースの報告対象となる医療法人及び介護サービス事業者に過度な事務負担が生じないよう、負担軽減策もあわせて講ずること。
④地域医療連携推進法人制度について一定の要件のもと個人立の病院等や介護事業所等が参加できる仕組みを導入する。
⑤出資持分の定めのある医療法人が出資持分の定めのない医療法人に移行する際の計画の認定制度について、期限の延長(令和5年9月末→令和8年12月末)等を行う。
厚生労働省「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」の成立について より参照
3.施行期日
令和6年4月1日(ただし、(3)①の一部及び(4)⑤は公布日、(4)③の一部は令和5年8月1日、(1)②は令和6年1月1日、(3)①の一部及び(4)①は令和7年4月1日、(4)③の一部は公布後3年以内に政令で定める日、(4)②は公布後4年以内に政令で定める日)
厚生労働省「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」の成立について より引用
(文責:税理士法人FP総合研究所)