【No277】雇用保険制度研究会の中間整理について

 厚生労働省職業安定局が実施する雇用保険制度研究会から令和5年5月12日付けで中間報告が取りまとめられています。今回の医業経営FPNewsでは、雇用保険制度研究会から公表された内容を簡潔にご報告します。

1.雇用保険制度研究会の目的

 新型コロナウイルス感染症による雇用への影響等に対応するため、令和4年4月1日に雇用保険法等が改正されています。改正の際に、労働政策審議会や国会において様々な指摘があり、雇用保険の給付と負担の在り方などの雇用保険制度を検討するために雇用保険制度研究会を開催することになりました。

2.雇用保険制度とは

 雇用保険制度は、昭和22年に「失業保険制度」として創設されました。その後、昭和50年に「雇用保険制度」に変更され、労働者の雇用に関するセーフティーネットとして機能しています。

 「雇用保険制度」の中心的な機能は失業等給付になりますが、平成7年に育児休業給付や高年齢雇用継続給付、平成10年に教育訓練給付、平成11年に介護休業給付が創設され、失業等給付以外の雇用政策的な給付が拡充されています。

雇用保険制度研究会「雇用保険制度研究会 中間整理」より引用

3.検討の内容

 雇用保険制度研究会で検討されている主な個別的事項は以下のとおりになります。

(1)基本手当等

 ・少なくとも所定給付日数を延ばすとマッチングが良くなるという一貫したエビデンスはないことから、総合的に考えると所定労働日数を延ばすことには慎重になるべきではないか。

 ・諸外国の例を見ても、自ら保険事故を起こした自己都合離職の場合は給付しないか給付制限期間を設けており、給付制限期間を撤廃することには慎重であるべきではないか。

 ・保険事故としての失業の特性から、失業状態から積極的に脱却しようとしないモラルハザードが生じるおそれがあることを考えると、保険制度の適切な運営という観点からオンラインによる失業認定をどう考えるかを検討すべきではないか。また、失業認定と職業相談が有効に連携することが再就職促進のために重要。諸外国の例を見ても、初回の職業相談は対面で実施しており、重要な意義があると考えられる。

(2)教育訓練給付

 ・「人への投資」の目的は、就職促進や失業予防といった雇用政策にとどまらず、経済政策の側面がある。また、雇用保険の被保険者に限らず、公務員、自営業者、無職の者にも学び直しニーズはある。雇用保険のみが担うのではなく、省庁を越えたもう少し幅広な施策でやるべきではないか。

(3)育児休業給付

 ・日本の育児休業給付は、労働者個人に権利付与されており、他国と比べて給付率も非常に高いことが特徴。他方、就業継続の観点から、時短勤務を選択した場合の給付の創設が考えられるのではないか。

 ・育児休業給付は当初雇用継続のための給付として創設されたが、その後の給付内容拡充により、労働者の雇用と生活の安定という雇用保険制度の中心的な趣旨からするとやや位置付けが外れつつあるのではないか。雇用保険の中でなお維持すべきかどうか、財源の在り方も含めて見直しが必要ではないか。

(4)求職者支援制度

 ・リスキリングの観点から、経験職種の中でスキルアップするために求職者支援訓練を活用することも重要ではないか。また、求職者支援制度は利用促進が課題であり、その観点から点検が必要。

雇用保険制度研究会「雇用保険制度研究会 中間整理(主な内容) 令和5年5月公表」より引用

4.おわりに

 雇用保険制度は、単なる失業時のセーフティーネットの機能のみならず、その他の機能を有しています。具体的には、「失業状態からの救済」、「労働力需給調整機能の円滑化」及び「失業の予防」などが挙げられます。例えば、「労働力需給調整機能の円滑化」は労働政策と経済政策の両面の機能を有しています。そのため、今後の雇用保険制度は、失業時のセーフティーネットの機能を始めとする雇用政策的な方向を維持するのか又は制度をスリム化する方向を目指すのかといった議論も必要と考えられています。 

(文責:税理士法人FP総合研究所)