【No273】「医療DXの推進に関する工程表」について

 政府は、令和5年3月8日に第2回医療DX推進本部の幹事会を開催し、医療DXの推進に関する工程表についての骨子案が示されました。医療DX推進本部は医療分野でのDX(デジタルトランスフォーメーション)を通じたサービスの効率化・質の向上を実現することにより、国民の保健医療の向上を図るとともに、最適な医療を実現するための基盤整備を推進するため、関連する施策の進捗状況等を共有・検証することを目的としています。

1.基本的な考え方

 医療DXとは、保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、申請手続き、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など) において発生する情報やデータに関し、その全体が最適化された基盤を構築し、活用することを通じて、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えていくことと定 義されました。医療DXに関する施策を推進することにより、以下の5点の実現を目指していきます。

(1) 国民のさらなる健康増進

 誕生から現在までの生涯にわたる保健医療データをPHR(Personal Health Record)として自分自身で一元的に把握可能となり、個人の健康増進に寄与する。自分自身では必ずしも記憶していない検査結果情報、アレルギー情報等が可視化されることにより、将来的にも安全・安心な医療の受療が可能となる。

(2)切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供

 本人の同意を前提として、全国の医療機関等がセキュリティを確保しながら必要な診療情報を共有することにより、切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供が可能となる。さらに、災害や次の感染症危機を含め、全国いつどの医療機関等にかかっても、必要な医療情報が共有されることとなる。

(3) 医療機関等の業務効率化

 システムコストが低減されることにより、医療機関等のデジタル化が促進され、業務効率化が進むとともに、効率的な働き方が実現する。また、次の感染症危機において、医療現場における情報入力等の負担を軽減するとともに、必要な情報を迅速かつ確実に取得することが可能となる。

(4)人材の有効活用

 診療報酬改定に関する作業が効率化されることにより、医療情報システムに関与する人材の有効活 用や費用の低減を実現し、ひいては医療保険制度全体の運営コストの削減が可能となる。

(5)医療情報の二次利用の環境整備

 民間事業者との連携も図りつつ、保健医療データの二次利用により、創薬、治験等の医薬産業やヘルスケア産業の振興に資することが可能となり、結果として、国民の健康寿命の延伸に貢献する。

 内閣官房 『第2回医療DX推進本部幹事会議事次第』より引用

2.具体的な施策及び到達点

 上記1の5つの目標を実現するために必要となる具体的な施策及び到達点が整理されました。

(1)マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速等

 マイナンバーカード1枚で保険医療機関・薬局を受診することにより、患者本人の健康・医療に関するデータに基づいた、より適切な医療を受けて頂くことが可能となるなど、マイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認は、医療DXの基盤である。令和5年4月に、原則保険医療機関・薬局でオンライン資格確認に対応するとともに、訪問診療・訪問看護等、柔道整復師・あん摩マッ サージ師・はり師・きゅう師等の施術所等でのオンライン資格確認の構築、マイナンバーカードのスマホ搭載によるスマートフォンでの健康保険証利用の仕組みの導入等の取組を進め、令和6年秋の健康保険証の廃止を目指す。また生活保護(医療扶助)でのオンライン資格確認を令和5年度中に導入する。

(2)全国医療情報プラットフォームの構築

①共有可能な医療情報の範囲の拡大、電子カルテ情報の標準化等

 オンライン資格確認等システムを基盤として、概ね全ての医療機関・薬局に電子処方箋の実施を拡大していくととともに、全国の医療機関・薬局において、電子カルテ情報の一部の共有、閲覧を可能とする電子カルテ情報共有サービス(仮称)の構築に取り組む。当初は、3文書・6情報(診療情報提供書、 退院時サマリー、健康診断結果報告書、傷病名、検査結果等)の共有から進め、順次、対象となる情報の範囲を拡大していく。特に救急時に有用な情報等の拡充を進めるとともに、救急時に医療機関等において患者の必要な医療情報が速やかに閲覧できる仕組み早急に整備する。また、検査結果等については、PHRとして患者本人がマイナポータルを通じ情報を確認できる仕組みもあわせて構築する。医療機関・薬局における電子カルテ情報の共有を進めるため、医療機関における標準規格に対応した電子カルテの導入を推進する。併せて、標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテ(標準型電子カルテ) の整備を行っていく。

②自治体、介護事業者等とも、必要な情報を安全に共有できる仕組みの構築

 医療や介護などのサービスの提供に関し、患者、自治体、医療機関、介護事業者等で紙の書類のやりとりがされており、患者にとって書類・手帳を持ち運ぶ手間となっているだけでなく、各機関において 都度入力する必要があり、また各機関間での情報の共有に限界があるところ。こうした業務フローを見 直し、関係機関や行政機関等の間で必要な情報を安全に交換できる情報連携機能を整備し、自治体シス テムの標準化の取組と連動しながら、介護保険、予防接種、母子保健、公費負担医療や地方単独の医療助成などに係る情報を共有していく。また、個人が行政手続に必要な情報を入力しオンラインで申請ができる機能をマイナポータルに追加し、医療や介護などの手続をオンラインで完結させる。

(3)診療報酬改定DX

 診療報酬改定時に医療機関等やベンダが個別にシステム改修やマスターメンテナンスに対応することで、人的、金銭的に非常に大きなコストが生じている。限られた人的資源、財源の中で医療の質の更なる向上を実現するためには、こうした間接コストを可能な限り低減させる事が重要である。このため、マスタ及びそれを活用した電子点数表の改善・提供、診療報酬の算定と患者の窓口負担金計算を行うための全国統一の共通的な電子計算プログラムとして共通算定モジュールを開発・提供するとともに、デジタル化に対応するため診療報酬点数表におけるルールの簡素化・明確化を図り、これらのマスタ、モジュールとの連携を前提とした標準型電子カルテの提供により、医療機関のシステムを抜本的にモダンシステム化していく。これらの取組により医療機関等の負担軽減を図るとともに、診療報酬改定の施行時期について検討する。

(4)医療DXの実施主体

 医療DXに関する施策について、国の意思決定の下で強力に推進していくため、オンライン資格確認等システムを拡充して行う全国医療情報プラットフォームの構築、及び診療報酬改定DX等本工程表に記載された施策に係る業務を担う主体を定める。全国医療情報プラットフォームのベースとなるオンライン資格確認等システムその他既存の資産の活用の視点も踏まえつつ、既存の組織に機能を追加することを念頭に、組織のあり方や人員体制等について速やかに検討し、必要な措置を講ずる。

内閣官房 『第2回医療DX推進本部幹事会議事次第』より引用

3.当面の進め方

 医療DXに関する施策が確実に推進されるよう、医療DX推進本部又は医療DX推進本部幹事会において、進捗状況を定期的に確認し、デジタル技術の進歩の状況なども踏まえつつ、必要に応じて柔軟な見直しを行う等のフォローアップが行われます。
 次回、第3階医療DX推進本部幹事会にて工程表案の最終確認が実施され、第2回医療DX推進本部にて工程表策定の予定です。

内閣官房 『第1回医療DX推進本部幹事会議事次第資料8(参考資料)」より引用

(文責:税理士法人FP総合研究所)