【No268】開業医の確定申告における主な注意点
令和4年分の確定申告期限(令和5年3月15日)が近づいておりますので、開業医の確定申告における注意点で主なものをご紹介します。今回ご紹介するもの以外にも、不動産の譲渡や生命保険の満期金など毎年発生しないものもありますので、専門家に相談されることをお勧め致します。
1.給与所得や雑所得の計上漏れ(個人診療所及び法人診療所の開業医)
開業医のドクターは、他の医療機関や製薬会社などから給与収入や講演料などを収受することが少なくありません。これらの給与所得や雑所得を計上することを失念するケースがありますので、注意が必要です。
2.社会保険診療報酬の概算経費の特例(個人診療所の開業医)
医業経営FPNewsNo217で紹介しておりますとおり、一定の要件を満たす医業又は歯科医業を営む個人は、租税特別措置法第26条による概算経費の特例を適用することが考えられます。この租税特別措置法第26条を適用することで、事業所得の必要経費を計算する際に、実額経費ではなく、概算経費率を利用して申告することが可能です。社会保険診療報酬が5,000万円以下で、かつ、事業所得に係る総収入金額に算入すべき金額の合計額が7,000万円以下である場合には、実額経費と概算経費のどちらが有利であるかを確認し、申告書を作成することができます。
3.青色事業専従者給与(個人診療所の開業医)
配偶者に対し青色事業専従者給与を支払っている場合には、以下の点について注意が必要です。
(1)青色申告書を提出することにつき、所轄税務署長の承認を受けていること
(2)青色事業専従者は、居住者(開業医)と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢15歳未満の者を除きます)であること
(3)青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書を一定の期日までに提出し、その届出書に記載されている金額の範囲内において給与の支払いを受けていること(未払計上を行う場合は、基本的には必要経費に算入されません。)
(4)その労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものであること
4.経営セーフティ共済(中小企業退職金協会)の加入(個人診療所の開業医)
個人開業医の場合には、経営セーフティ共済への加入が可能です。経営セーフティ共済は取引先事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度になります。掛金月額は5,000円~20万円となっており、支払った掛金(累積800万円まで)を必要経費に算入することが可能です。
5.医療用機器等の特別償却(個人診療所の開業医)
特別償却を実施することのできる高額な医療用機器を取得する場合には、注意が必要です。この特別償却の対象資産は、500万円以上の医療機器で、高度な医療の提供に資するもの若しくは先進的なものとして政令で定めるもので一定のものになります。
6.上場株式等の譲渡損失(個人診療所及び法人診療所の開業医)
上場株式等の譲渡損失は確定申告を行うことによって、その年分の上場株式等の配当所得(申告分離課税を選択したものに限ります)等と損益通算を行うことが可能です。また、損益通算してもなお控除しきれない損失の金額は、翌年以後3年間の繰越控除が可能です。
上場株式等の譲渡がなかった年であっても、譲渡損失を翌年に繰り越すためには、確定申告書にその旨を記載する必要があります。
7.小規模企業共済の加入(個人診療所の開業医)
個人開業医の場合には、小規模企業共済への加入漏れがないように注意する必要があります。小規模企業共済は個人事業主のための退職金制度になります。支払った掛金(月額1,000円から70,000円まで)の全額が小規模企業共済等掛金控除として所得から控除されます。また、将来受け取る金員は退職所得など所得税の計算上有利な方法で計算することが可能です。
8.住宅ローン控除(個人診療所及び法人診療所の開業医)
住宅ローン控除の適用を受ける場合には、控除を受ける年分の合計所得金額が2,000万円以下(令和4年1月1日以降に自己の居住の用に供したときに限ります。令和3年12月31日までに自己の居住の用に供したときは、控除を受ける年分の合計所得金額が3,000万円以下になります。)である必要があります。
また、10年以上にわたり分割して返済することも要件になります。住宅ローン控除の適用期間中に繰上返済をする場合には、返済期間が10年以上になるように注意が必要です。
9.所得拡大促進税制の適用(個人診療所の開業医)
所得拡大促進税制は、中小企業者等が前年より給与等を増加させた場合に、その増加額の一部を所得税から税額控除することができる制度になります。令和4年の所得税の確定申告から適用要件も簡素化されておりますので、適用漏れのないようにご確認ください。
10.ふるさと納税(寄附金控除)の適用(個人診療所及び法人診療所の開業医)
ふるさと納税のワンストップ特例制度の申請を行っている場合であっても、確定申告を行うときは、ふるさと納税(寄附金控除)の適用について申告書に記載する必要があります。ふるさと納税のワンストップ特例制度を申請したからといって、確定申告書に記載しなければ節税にはなりませんので注意が必要です。
また、ふるさと納税の返戻品は、一時所得の課税対象となります。こちらも申告漏れのないように注意が必要です。
11.財産債務調書(個人診療所及び法人診療所の開業医)
下記の方は財産債務調書を提出する必要がありますので、提出漏れのないように注意が必要です。
所得税の確定申告書を提出しなければならない方であって、次の(1)及び(2)のいずれにも該当する方
(1)その年分の退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を越えること
(2)その年の12月31日において、その価額の合計額が3億円以上の財産又はその価額の合計額が1億円以上である国外転出特例財産を有すること
(文責:税理士法人FP総合研究所)