【No257】「月60時間を超える法定時間外労働の割増率」について
2023年4月1日より、これまで大企業を対象としていた、月60時間を超える法定時間外労働の割増率を50%以上とする規定(労働基準法第37条1項ただし書き)が中小企業においても適用されます。
この改正により、医療機関においても人件費が増加する可能性があります。ただし、改正までに対策を講じれば人件費増加を防ぐ(少なくする)ことも可能です。
そこで、本稿では月60時間を超える法定時間外労働の割増賃金率の制度の背景について触れるとともに、2023年4月1日までに医療機関が対応すべき事項についてご案内します。
1.制度の概要
2010年の労働基準法改正により、労働基準法第37条1項ただし書きにおいて、「当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」と規定されていますが、労働基準法附則第138条において、中小企業は「当分の間、第三十七条第一項ただし書の規定は、適用しない。」として、引き上げまでに猶予期間が設けられ、割増賃金率の引き上げは大企業のみが対象となっておりました。
しかし、2019年の「働き方改革関連法」が成立されたことに伴い、中小企業の割増賃金率の猶予措置の廃止が決定され、2023年4月1日より中小企業も月60時間以上の法定時間外労働の割増賃金率が25%から50%に引き上げられることとなります。
厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます。」から引用
※中小企業に該当するか否かは、①または②を満たすかどうかで企業単位で判断されます。
2.割増賃金率引き上げ後の法定時間外労働の計算方法
割増賃金率が50%に引き上げられた後は、法定時間外労働が月60時間を超えた時の深夜労働(午後10時から午前5時)・休日労働の割増賃金も変動します。
①深夜労働
月60時間を超える時間外労働を深夜において行う場合、深夜割増賃金率は75%(深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%)となります。一方で、深夜労働が月60時間以下の時間外労働である場合には、従来通り50%(深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率25%)で計算されます。
②休日労働
法定休日労働は時間外労働とは区別されるため、法定休日に行った労働時間は割増賃金率(35%)が適用されます。ただし、法定外休日に行った労働時間は月60時間の時間外労働時間の算定に含まれます。
厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます。」2頁を参照
3.事業主に求められる対応
➀労働時間の適正な把握
正しい割増賃金率を算定するために、今まで以上に労働時間管理の徹底が不可欠となります。そのために、従業員の勤怠状況を効率的に、正しく記録できる勤怠管理システムの導入を検討する必要があります。
②業務の効率化を図り、残業時間を削減
割増賃金率の引き上げは時間外労働を是正することが目的であるため、月60時間を超える時間外労働をしないことが大事です。そのために、業務フローの見直しによる無駄の削減や、機械の導入による生産性向上を検討する必要があります。
③代替休暇
労働基準法第37条第3項は、月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の健康を確保するために、引き上げ分の割増賃金を支払うかわりに、有給の休暇(代替休暇)を付与することができます。ただし、制度の導入にあたり、以下の事項を労使協定で締結する必要があります。
・代替時間数の具体的な算定方法
・代替休暇の単位
・代替休暇を与えることができる期間
・代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日
④就業規則の見直し
割増賃金率の引き上げに併せて就業規則の変更が必要となる可能性があります。
4.さいごに
本稿では、中小企業における割増賃金率の引き上げについてご案内いたしました。2023年4月より中小企業も月60時間を超える法定時間外労働時間について、引き上げ後の割増賃金率が適用されます。そのため、今まで以上に人件費に注意する必要があります。
2023年4月の改正までに、従業員の労働時間や業務内容を見直しすることは、医療機関の業務効率化に寄与するだけでなく、残業時間を削減することで、各従業員の健康や働きやすい職場環境の改善が期待されるため、時間外労働を減らす取り組みを進めてはいかがでしょうか。
(文責:税理士法人FP総合研究所)