【No246】令和5年度厚生労働省税制改正要望
令和4年8月31日に令和5年度厚生労働省税制改正要望が公表されました。健康・医療分野をはじめ、福祉、子ども・子育て、雇用、年金など幅広い分野の内容が盛り込まれておりましたので、主な要望項目をご紹介するとともに、その内容を一部抜粋してご紹介します。
【主な税制改正要望】
※1.(2)(3)、4.(2)は、本稿後半にて詳しくご説明します
1.健康・医療
(1)地域医療構想実現に向けた税制上の優遇措置の延長等〔登録免許税、固定資産税〕
医療介護総合確保法上の認定再編計画に基づく医療機関の再編に伴い、取得する土地又は建物について所有権の移転登記等への登録免許税の税率軽減措置を2年延長するとともに、公益性が高い場合に、取得する一定の建物について固定資産税の課税標準を現行の2分の1に軽減する措置を講じる。
(2)医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の延長等〔相続税、贈与税〕
医療法上の持分なし医療法人への移行計画の認定制度を前提とした特例措置について、その適用期限を延長する等の必要な措置を講じる。
(3)医療提供体制の確保に資する設備の特別償却制度の延長〔所得税、法人税〕
①医師及びその他の医療従事者の労働時間短縮に資する機器等の特別償却制度、②地域医療構想の実現のための病床再編等の促進のための特別償却制度、③高額な医療用機器に係る特別償却制度について、適用期限を2年延長する。
(4)試験研究を行った場合の法人税額等の特別控除(研究開発税制)の延長等〔所得税、法人税、法人住民税〕(経済産業省等と共同要望)
企業が研究開発投資を増加させるインセンティブの更なる向上を図るため、一般型の控除上限の上乗措置の適用期限を2年延長する等の必要な措置を講じる。
(5)国民の健康の観点からたばこの消費を抑制することを目的とした、たばこ税の税率引上げ〔たばこ税、地方たばこ税〕
国民の健康の観点から、たばこの消費を抑制することを目的として、たばこ税及び地方たばこ税の税率の引上げを要望する。
(6)「感染症等専門家組織」(仮称)の創設に伴う税制上の所要の措置〔法人税等〕
令和4年6月に公表された「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の方向性」に基づき、「感染症等専門家組織」(仮称)の設立に伴い、国税及び地方税について、税制上の所要の措置を講じる。
(7)出産育児一時金の支給額の見直しに伴う非課税措置等の拡充〔所得税、国税徴収法、個人住民税、徴収規定〕(財務省等と共同要望)
令和4年度に出産育児一時金の支給額を見直した場合において、次年度以降の一時金について、引き続き、非課税措置等を継続する。
2.福祉、子ども・子育て
(1)母子父子寡婦福祉法に基づく高等職業訓練促進給付金に係る非課税措置等の延長等〔所得税、国税徴収法、個人住民税、徴収規定〕
母子父子寡婦福祉法に基づく「高等職業訓練促進給付金」について、令和4年度限りとなっている制度拡充分の非課税措置等の適用期限を延長する等の措置を講じる。
(2)生活困窮者自立支援法及び生活保護法の見直しに伴う税制上の所要の措置〔所得税等〕
生活困窮者自立支援法及び生活保護法並びに生活保護基準について、社会保障審議会において見直しの検討を行っており、その検討結果を踏まえて税制上の所要の措置を講じる。
3.雇用
(1)駐留軍関係離職者、国際協定の締結等に伴う漁業離職者等に対して支給される職業転換給付金に係る非課税措置等の延長等〔所得税、国税徴収法、個人住民税、事業所税、徴収規定〕(国土交通省と共同要望)
駐留軍関係離職者、国際協定による漁業離職者等に対して支給される職業転換給付金に係る非課税措置等について、適用期限を5年延長する等の必要な措置を講じる。
(2)労働者協同組合法の施行に伴う税制上の所要の措置〔固定資産税、都市計画税〕
労働者協同組合連合会が所有・使用する事務所等に係る固定資産税・都市計画税について、非課税措置を講じる。
4.年金
(1)企業年金等の積立金に対する特別法人税の撤廃又は課税停止措置の延長〔法人税、法人住民税〕(総務省等と共同要望)
企業年金等の積立金に対する特別法人税について、これらの普及を図るため及び健全な運営を確保するため、これらの積立金に対する特別法人税を撤廃する。(撤廃に至らない場合、課税停止措置の延長を行う。)
(2)個人型確定拠出年金制度(iDeCo)の改革等に伴う税制上の所要の措置〔所得税、法人税、個人住民税、法人住民税、事業税〕
新しい資本主義実現会議に設置される検討の場において議論・策定される「資産所得倍増プラン」に基づき、税制上の所要の措置を講じる。
5.生活衛生
(1)生活衛生同業組合等が設置する共同利用施設に係る特別償却制度の適用期限の延長〔法人税〕
生活衛生同業組合(出資組合に限る。)及び生活衛生同業小組合が策定する振興計画に基づく共同利用施設に係る特別償却制度について、適用期限を2年延長する。
6.その他
(1)戦没者等の妻に対する特別給付金に関する非課税措置等の存続〔所得税、印紙税、国税徴収法、個人住民税、徴収規定〕
戦没者等の妻に対する特別給付金について、国として特別の慰藉を行うとの趣旨に鑑み、非課税措置等を存続する。
(2)国家資格の職権による登録事項の変更に係る税制上の所要の措置〔登録免許税〕
資格保有者の登録事項に変更があったときに、「国家資格等情報連携・活用システム」において、資格管理者が職権で登録事項を変更した場合、医師等の特定の資格保有者の登録事項の変更にかかる登録免許税について、税制上の所要の措置を講じる。
(3)福島国際研究教育機構に係る税制上の所要の措置〔法人税等〕(復興庁等と共同要望)
令和5年4月の福島国際研究教育機構の設立に伴い、当該機構の円滑な設立及び運営が可能となるよう、税制上の所要の措置を講じる。
【主な税制改正要望の概要(一部抜粋)】
≪医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の延長等(相続税、贈与税)≫
1.現状
・医療法人の「非営利性」の徹底を主眼とした平成18年度の医療法改正により、平成19年度以降は「持分あり医療法人」の新規設立はできないこととなった。
(注)医療法人の非営利性の徹底及び地域医療の安定性の確保を図るため、医療法人の残余財産の帰属すべき者から個人(出資者)を除外し、国等に限定した。
・平成26年度の医療法改正により「認定医療法人制度」が創設され、「持分あり医療法人」が「持分なし医療 法人」に移行する計画を作成し、その計画が妥当であると認められた場合は、厚生労働大臣の認定を受けることができることとなった。(大臣認定の後、3年以内に移行)
・平成29年10月からは、出資者の持分放棄に伴い医療法人へ課されるみなし贈与税の非課税措置も導入されたこと等により、認定医療法人制度の活用件数は増加してきており、持分なし医療法人への移行には欠かせない制度となっている。
(注)持分あり医療法人:約3.8万法人、持分なし医療法人:約2万法人(令和3年度末時点)
・一方で、認定を受けた医療法人の中には、その後の出資者との調整期間の不足等により、認定から3年以内に放棄の同意を得ることができずに、認定医療法人制度を活用できなかった法人も存在する。
(注)移行期限は、認定から3年以内としなければならず、移行期限までに移行できなかった場合には、認定が取り消され、再度の認定を受けることはできない。
2.要望
・現行の持分なし移行促進税制(納税猶予等)は、令和5年9月30日までの措置であるため、当該制度を令和8年9月30日まで延長する。
・更なる移行促進を行うため、認定から3年以内の移行期限を、認定から5年以内に緩和する。
≪医療提供体制の確保に資する設備の特別償却制度の延長(所得税、法人税)≫
1.現状
・医師及びその他の医療従事者の労働時間短縮に資する機器等の特別償却制度
医師・医療従事者の働き方改革を促進するため、労働時間短縮に資する設備に関する特別償却が出来る。
対象設備:医療機関が、医療勤務環境改善支援センターの助言の下に作成した医師労働時間短縮計画に基づき取得した器具・備品(医療用機器を含む)、ソフトウェアのうち一定の規模(30万円以上)のもの
特別償却割合:取得価格の15%
・地域医療構想の実現のための病床再編等の促進のための特別償却制度
地域医療構想の実現のため、民間病院等が地域医療構想調整会議において合意された具体的対応方針に基づき病床の再編等を行った場合に取得する建物等について、特別償却が出来る。
対象設備:病床の再編等のために取得又は建設(改修のための工事によるものを含む)をした病院用等の建物及びその附属設備(既存の建物を廃止し新たに建設する場合・病床の機能区分の増加を伴う改修(増築、改築、修繕又は模様替)の場合)
特別償却割合:取得価格の8%
・高額な医療用機器に係る特別償却制度
取得価格500万円以上の高額な医療用機器を取得した場合に特別償却が出来る。
対象機器:高度な医療の提供に資するもの又は医薬品医療機器等法の指定を受けてから2年以内の医療機器
特別償却割合:取得価格の12%
2.要望
・医療提供体制の確保のため、①医師及びその他の医療従事者の労働時間短縮に資する機器等の特別償却制度、②地域医療構想の実現のための病床再編等の促進のための特別償却制度、③高額な医療用機器に係る特別償却制度について、適用期限を2年延長する。
※③は高度な医療の提供という観点から対象機器の見直しを行うとともに、全身用CT・MRIについては引き続き配置効率化等を促す仕組みを講じる。
≪個人型確定拠出年金制度(iDeCo)の改革等に伴う税制上の所要の措置(所得税、法人税、個人住民税、法人住民税、事業税)≫
1.現状
・新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(令和4年6月7日閣議決定)において、本年末までにiDeCo(個人型確定拠出年金)制度の改革等を含む「資産所得倍増プラン」を策定するとされたところ。
<参考1:新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~(令和4年6月7日閣議決定)>
Ⅲ.新しい資本主義に向けた計画的な重点投資
1.人への投資と分配
(3)貯蓄から投資のための「資産所得倍増プラン」の策定
我が国個人の金融資産2,000兆円のうち、その半分以上が預金・現金で保有されている。この結果、米国では20年間で家計金融資産が3倍、英国では2.3倍になっているが、我が国では1.4倍である。
家計が豊かになるために家計の預金が投資にも向かい、持続的な企業価値向上の恩恵が家計に及ぶ好循環を作る必要がある。
このため、個人金融資産を全世代的に貯蓄から投資にシフトさせるべく、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的な拡充を図る。また、現預金の過半を保有している高齢者に向けて、就業機会確保の努力義務が70歳まで伸びていることに留意し、iDeCo(個人型確定拠出年金)制度の改革やその子供世代が資産形成を行いやすい環境整備等を図る。これらも含めて、新しい資本主義実現会議に検討の場を設け、本年末に総合的な「資産所得倍増プラン」を策定する。
<参考2:iDeCoの加入可能年齢>
令和4年5月より、国民年金被保険者(※)であれば、iDeCoに加入できるようになっている。
(※)国民年金被保険者の資格は、①第1号被保険者:60歳未満、②第2号被保険者:65歳未満、③第3号被保険者:60歳未満、④任意加入被保険者:保険料納付済期間等が480月未満の者は任意加入が可能(65歳未満)となっている。
2.要望
・新しい資本主義実現会議に設置される検討の場において議論・策定される「資産所得倍増プラン」に基づき、税制上の所要の措置を講じる。
厚生労働省 『令和5年度主な税制改正要望の概要』より一部抜粋
(文責:税理士法人FP総合研究所)