【No245】医療従事者が新型コロナウイルスに感染した場合の労災給付について

 新型コロナウイルス感染症は、全国的にオミクロン株BA.5系統等による感染拡大が続いており、お盆休みの期間を過ぎた現在でも感染者数は高止まりを続けています。そこで、医療機関で勤務される医療従事者の方が新型コロナウイルス感染症に感染した場合の労災認定や労災保険給付についてご説明します。

1.新型コロナウイルスに感染した場合の労災認定

 業務との間に相当因果関係が認められる疾病については、労災保険給付の対象となります(これを「業務上疾病」といいます」)。

 業務上疾病とは、労働者が事業主の支配下にある状態において発生した疾病ではなく、事業主の支配下にある状態において有害因子にさらされたことによって発症した疾病をいいます。

 一般的に、労働者に発症した疾病について、次の3要件が満たされる場合には、原則として業務上疾病と認められます。

 (1)労働の場に有害因子が存在していること

 (2)健康障害を起こしうるほどの有害因子にさらされたこと

 (3)発症の経過および病態が医学的にみて妥当であること

(厚生労働省「労働災害給付の概要」P2~P3より抜粋)

 これを単純に新型コロナウイルス感染症の場合にあてはめると、診療などの業務中に感染したことと、感染が業務に起因することが明確でなければなりません。しかし、厚生労働省は令和2年4月28日に全国の労働局労働基準部長に対して「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」という通達を出し、その中で医療従事者に対しては特例的に「患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となること」という指示を出しています。

 また、患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等以外の従業員であっても、

 (1)複数の感染者が確認された労働環境下での業務

 (2)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下の業務

については、感染リスクの高い業務に該当するとされていますので、医療機関で勤務される方については感染経路が不明の場合でも労災認定を受けることができる可能性があります。

 厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例」において、具体的な事例を複数紹介していますので、こちらも併せてご参照ください。

2.労災保険給付の種類

 新型コロナウイルスに感染した方が労災認定に基づいて受給することができる補償給付は以下の3種になります。

厚生労働省「職場で新型コロナウイルスに感染した方へ」より抜粋

3.事業主(使用者)の注意点

 新型コロナウイルスに感染した方が労災認定に基づいて受給することができる補償給付のうち休業補償については、通常の申請様式のほかに、申請者の感染に至る経緯や状況を把握する目的で以下の書類の作成・添付が求められます。

・使用者報告書(医療機関・介護施設専用)(PDF

・申立書(医療機関・介護施設専用)(PDF

・同意書(PDF

 保険給付の請求は労働者自身で行うものですが、医療機関を運営されている事業主は使用者として上記のうち使用者報告書の作成が求められることなります。

 また、医業経営FPNews№211においてご紹介しました「新型コロナウイルス感染症対応医療機関労災給付上乗せ補償保険加入支援事業」の対象となる民間保険に加入されている保険医療機関等に該当する場合は、労災の補償給付の支給決定後に上乗せ保険の請求をその保険医療機関等の事業主がおこなうことになります。

(文責:税理士法人FP総合研究所)