【No231】「医療機関を取り巻く事業承継問題」について
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、医療機関の休業や廃業の増加が懸念されるなか、その回避策として事業承継が注目されています。しかし、後継者不在のため、やむを得ず廃業を選択する事案もあります。そのなかで、国は、医療機関を含む中小企業に対して、次世代への事業承継や、世代交代にともなう成長を促すため支援体制を強化しています。
そこで、本稿は医療機関を取り巻く事業承継問題について、令和4年3月に改訂された中小企業庁の事業承継ガイドラインを中心にご案内します。
1.事業承継に関する中小企業の現状
中小企業数は全企業数の99.7%を占めており、社会を支える存在として重要な役割を担っています。
また、中小企業に勤務する従業員数は全企業に勤務する従業員の約69%を占めており、中小企業は雇用の受け皿としての役割もあります。
一方で、全国の経営者の高齢化が進み、後継者不在のまま推移すれば廃業は避けられず、そこで勤務する従業員を解雇することとなります。しかし、事業承継を円滑に行えば、後継者が安定した経営をスムーズに実行でき事業の成長だけでなく、従業員の雇用も守れることとなります。
2.医院承継の具体的な方法
医療機関の事業承継の方法として、親族内承継、医院内承継、第三者承継の大きく3つの方法があります。それぞれの内容とメリットとデメリットは以下のとおりです。
(1)親族内承継(院長や法人理事長が自分の子をはじめとした親族へ承継)
親族内承継の場合、後継者を早期に決めることができ、長期の準備期間を確保することができます。
また、相続等により財産を後継者に移転することができるため、所有と経営の一体的な事業承継が可能です。
ただし、候補者である子や兄弟が後継者として適任であるとは限らない可能性があります。また、候補者が複数いる場合には候補者同士でトラブルが起きるリスクがあります。
(2)医院内承継(医療機関に勤務する親族以外の従業員に承継)
医院内承継の場合でも、家族内承継と同様に後継者を早期に決めることができます。
また、医療機関で長期間勤務していた従業員に承継させるため、経営方針等の一貫性を担保することができます。
医院内承継においても、後継者が適任とは限りません。
(3)第三者承継(親族でも従業員でもない医院外の第三者へ承継)
第三者承継の場合、親族内もしくは医院内に適任者がいないケースでも広く外部に候補者を求めることができます。
また、事業譲渡等により第三者に引き継ぐため、医療機関の売却により資金を得ることができます。
ただし、M&Aにより事業承継を行う場合、多額の費用を要することや、医院で勤務する従業員とのトラブルが生じる可能性があります。
中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)25頁、26頁」を参照
3.医院承継に向けた準備
(1)事前準備の必要性
事業承継には明確な期限がないため、健康上の問題等がなければ対応が後回しとすることはやむを得ない側面もあります。しかし、体調悪化など突発的な事情により事業承継が必要となることが考えられるため、早い段階から取り組んでおく必要性があります。
(2)経営状況・経営課題の見える化
事業承継を行う際に、医院の経営状況・経営課題を把握し引き継ぐことが重要となります。経営状況・経営課題を分析することで、院長自身が医院を知り、医院の強みは何なのか、弱みを改善するために何が必要となるのかなどを明確にすることができます。
(3)事業承継に向けた経営改善
事業承継は単純に事業を引き継ぐだけでなく、後継者に引き継ぐまでに事業の維持・発展に努める必要があります。その際に、後継者が引き継ぎたくなるような魅力的な経営状態まで引き上げることが重要となります。
(4)事業承継計画の策定/M&Aマッチングの実施
事業承継計画とは医院の数年後を見据えて「いつ」「どこで」「なにを」「誰に承継するのか」といった具体的な計画をいいます。
後継者が承継した後の経営状態を考え、中長期的な事業計画と事業承継計画を立てます。
M&Aにより売り手と買い手がマッチングするためには、一般的に会社の売却を仲介機関に依頼します。その際、社名を残すのか、従業員の雇用を保証するかなどの条件を明確にする必要があります。
(5)事業承継の実施
上記(1)から(4)を踏まえ明確化された課題や改善点を解消しつつ、事業承継計画やM&A手順に従って資産の移転や経営権を移譲していきます。
4.主な支援機関
(1)事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、全国47都道府県に設置された事業承継・M&Aの公的な支援機関です。ここでは、事業承継について、何から始めたらよいかわからないといった、事業承継に関する基本的な相談から親族内承継や従業員承継、M&Aの成約まで、弁護士などの専門家、金融機関、民間M&A支援機関と連携をしながら一貫したサポートが行われています。
(2)日本政策金融公庫
「事業を譲り渡したい人」と「事業を譲り受けたい人」をつなぐマッチングサービスだけでなく、後継者不在等の企業をM&A等により取得するための資金について融資を行っています。
5.最後に
事業承継に要する費用の一部を補助する支援策の申し込みが令和4年4月22日に開始されました。
この支援策については企業経営FPNews【No375】にてご案内していますので併せて、ご確認ください。
(文責:税理士法人FP総合研究所)