【No224】フェラーリは使用又は期間の経過により減価する資産か。 ~令和2年3月10日公開裁決事例より~

 お医者様の中には、個人の趣味として自動車を購入される方もいらっしゃると思います。また、事業用資産として法人で取得されている方や、個人所有だったものを法人へ移転させる方もいらっしゃると思います。

 そこで、個人の所得税の確定申告時期でもあるため、スポーツカーの経費化が妥当かどうかという点も気になる点ではありますが、今回は個人の資産として保有していたスポーツカーを譲渡した際(第三者又は自身の法人)に、税金の計算をしなければいけないのかどうかという点について、公開裁決事例を基に解説します。

まずは質問です。

Q:「自動車(非事業用)を売却した場合には税金がかかる? 〇か×か。」

A:「〇と×、どちらともあり得る。」

【解説】

 まず、自動車を売却して利益が生じる??という感覚にはあまり馴染みがないかと思いますが、所得税法においては、動産を売却した場合の計算は次のように定められています。

 譲渡所得の金額=譲渡価額-(取得費※1+譲渡費用)-500,000(特別控除)

※1取得費とは、一般に購入代金のことです。このほか、購入手数料や設備費、改良費なども含まれます。ただし、使用や、期間が経過することによって減価する資産にあっては、減価償却費相当額を控除した金額となります。

 つまり、自動車で考えると、購入時の価格から減価償却費相当額を控除した金額と50万円を加算した金額以上で売却すると、原則では税金の対象となります。

 原則と申し上げたのは、例外(非課税)もあります。非課税になるものとはどのようなものかというと、売却した自動車が生活に通常必要な動産、たとえば、通勤用の自動車であれば、課税対象とはなりません。

 『通勤用』というのは、日々通勤のために使用しているということになりますので、一般的には所有しているのはレジャー用となります。また、通勤用といっても高級車などは生活に通常必要とはいえないとなり、課税対象と考えられるのが一般的です。

 また、個人が事業の用に供していたものを売却した場合には譲渡所得を計算しなければなりません。

 ただし、よほどの人気車種、たとえばメルセデスのGクラスや、今流行している旧車、そして今回のようなフェラーリなどのスーパースポーツカーにならない限り利益がでる可能性は小さいかと思います。

 ※個人のレジャー用の自動車を減価償却させる場合には、通常の自動車の耐用年数6年の1.5倍=9年で行うこととなります。

 さて、ここから本題になりますが、国税不服審判所で判断された内容は、ある個人の方が、(おそらく)ご自身の会社に個人所有のフェラーリ4台を売却(価額には争いがなかったようで、譲渡税の申告をしていないという状況からすると、購入価額を売却価額としたのではと推測します)し、その売却時における譲渡所得を申告していなかったということで、課税庁側が更正処分を行いそのことに対して不服申し立てにより審議された件です。

 当事者としては、当該フェラーリは希少価値があり骨董品などと同じように、減価する資産には該当しないということで主張したようです。

1.経緯

①平成27年と28年に個人が法人に下記の車両を法人に売却した。その際に個人の確定申告においては譲渡所得としての下記車両の記載はなかった。

A:フェラーリF50(限定モデル全世界349台)

B:フェラーリ512TR(限定モデル全世界2,280台)

C:フェラーリ360モデナ 

D:フェラーリ612S ANNIVERSARY F1 

②原処分庁は、税務調査に基づき上記車両の売却益などに係る所得の申告漏れがあると、更正処分を行った。

③納税者側は、再調査の請求を行ったが棄却され、審査請求となる。

④補足

 おそらく売買価額に対しての争いがないので、それなりの価額(おそらく購入価額)にて売却されていると思われますが、課税庁側は上記A~Dの車両の生産年から考えると減価償却費を控除した後の取得費はかなり小さいものとなり、その結果、譲渡益が大きく生じると指摘したのだと思います。

2.争点

 A~Dの車両は、所得税法38条第2項に規定する『使用又は期間の経過により減価する資産=減価償却資産』に該当するか否か

3.各陣営の主張(ポイントのみ)

①課税庁:減価償却資産に該当する。

イ)愛好家の市場において希少性は有すると認められるものの、いずれも数百台、数千台またはそれ以上生産されていること、また、道路運送車両法上の登録を受けて他の一般車両と変わりなく公道を走行しているので、代替性がないとは認められない。

ロ)各車両が美術関係の年鑑等に登録されている作者の制作に係る書画、彫刻、工芸品等には当しない

ハ)各車両は、日常的に使用されており、希少価値を有し、代替性のないものに該当しないので、所得税法に規定する『時の経過によりその価値の減少しないもの』とはいえず、減価償却資産に該当する。

②納税者:減価償却資産に該当しない。

イ)車両AやBは全世界での総生産台数が少ない限定モデルであり、Aについては購入する権利が与えられるのも長年にわたりフェラーリブランドの発展に貢献した者に限られる。また、CやDについても限定モデルではないものの、通常の車両に比べて高く、取引数も限定的で購入も容易でないから希少価値が認められる。

ロ)各車両は、車両としての実用性に着目して購入されたものではなく、公道における走行もフェラーリに乗ること自体を目的するものであり、いずれも美術品オークションを運営する会社等が扱うような個性の強い車であるから、代替性のないものといえる。

ハ)各車両は、中古車市場において、その新車価格を大幅に上回る高値で取引されている。この取引価額は、時の経過によって逓減する機能性・実用性ではなく、時の経過によって逓減しない希少性・非代替性に着目して形成されていることが明らかである。このような取引価額の高騰とその形成要因という観点からも減価償却資産に該当しない。

4.審判所の判断(要約)

①所得税法おいて、その資産が「減価償却資産」である場合には、その資産の減価の額を取得費から控除した額とする旨規定し、減価償却資産の定義は同法に「償却をすべきものとして政令で定めるもの」と解される。

 そして、上記「政令で定める」資産について、所得税法施行令では、「棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(時の経過によりその価値の減少しないものを除く)とする。」旨規定し、同条第6号において「車両及び運搬具」を掲げている

 本件各車両が「車両及び運搬具」に該当することは明らかで、本件各車両が「時の経過によりその価値の減少しないもの」として減価償却資産から除外されるものと認められるか否かが問題となる。

 この「時の経過によりその価値の減少しないもの」については、所得税基本通達2-14が、古美術品、古文書、出土品、遺物等のように歴史的価値又は希少価値を有し、代替性のないもの等がこれに当たると定めているところ、この取扱いは、「時の経過によりその価値の減少しないもの」の例示として、当審判所においても相当であると認められる。

②これを前提に、まず、車両AおよびBについてみると、Aについては同種の車両が349台、Bについては同種の車両が2,261台生産されており、また、AおよびBのいずれも、生産開始後間もなく購入されたものであり、それぞれの売却時点においても生産されてから20年程度経過したにすぎないものであるから、一般の車両に比して入手しにくい車両であることを踏まえたとしても、AおよびBが歴史的価値又は希少価値を有して代替性のないものであるとまではいえない。

 次に、車両CおよびDについてみても、これらと同種の車両の販売台数がいずれも不明であることや生産開始後間もなく購入されたものであり、売却時点においても生産開始から10年ないし20年程度経過したにすぎないものであることからすれば、AおよびBと同様に歴史的価値又は希少価値を有して代替性のないものであるとはいえない。

③審判所の調査および審理の結果によっても、本件各車両が「時の経過によりその価値の減少しないもの」であることをうかがわせるような事情は認められず、他方で、各車両が、道路運送車両法上の登録をされ、自動車登録番号標を表示して公道を走行していたことからすれば、これらが車両として使用する目的で購入されたことが認められるから、かえって「時の経過によりその価値の減少しないもの」に該当するとはいえない事情が存在することになる。

 以上によれば、本件各車両は、「時の経過によりその価値の減少しないもの」として減価償却資産から除外される資産に該当するとは認められないから、減価償却資産に該当する。とし、課税庁側の考えを支持するということになりました。

 税務署の調査等においては、判例や裁決事例を根拠として指摘をされるケースもあります。高額な自動車の売却の際には、このような裁決事例もあったということをご留意ください。

(文責:税理士法人FP総合研究所)

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