【No212】医療法人の事業報告書等の届出事務・閲覧事務のデジタル化について
厚生労働省は、令和3年11月2日に開催された第82回社会保障審議会医療部会において、医療法人が届け出る事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、監査報告書及び関係事業者との取引の状況に関する報告書その他の書類(以下、「事業報告書等」という。)に関する届出事務及び閲覧事務のデジタル化へのロードマップを発表しました。従来は紙媒体による届出・閲覧だった仕組みが大きく変わることになりますので、現行の仕組みと今後デジタル化に向けた予定や懸念される事項について、ご説明いたします。
1.事業報告書等の届出・閲覧について
医療法人は、医療法第52条第1項の規定により、健全な運用の確保を目的として、毎会計年度終了後3月以内に、事業報告書等を都道府県知事に届け出ることが義務付けられています。
また、医療法第52条第2項により運営状況の透明性を確保するため、都道府県において、届出のあったが事業報告書等について請求があった場合には、これを閲覧に供さなければならないとされています。
厚生労働省 第82回社会保障審議会医療部会 資料3「医療法人の事業報告書等の届出事務・閲覧事務のデジタル化について」より引用
2.現行の問題点
事業報告書等の届出事務は紙媒体によって都道府県に届け出られ、国民への閲覧も都道府県の窓口等において紙媒体により行われており、医療法人・都道府県の双方に事務負担が生じている現状が問題視されています。
令和3年6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」に「医療法人の事業報告書等をアップロードで届出・公表する全国的な電子開示システムを早急に整え、感染症による医療機関への影響等を早期に分析できる体制を構築する」と盛り込まれたことを受けてこの度のロードマップ策定となりました。
3.届出事務・閲覧事務のデジタル化
届出事務・閲覧事務のデジタル化に際しては、次の取り組みによって事業報告書等のデジタル化とデータベースの構築を推進し、事務負担の軽減を図るとともに、国や都道府県において経営実態を把握し、より適切な支援や指導等への活用が可能となることを目標としています。
(1)令和3年4月~翌年3月末を会計年度とする医療法人の事業報告書等(令和4年6月末が提出期限)以降の事業報告書等について、医療機関等情報支援システム(G‐MIS)への電子媒体のアップロードによる届出を可能にするため、必要な省令改正等を行う。
(2)(1)で電子化した事業報告書等のデータを都道府県のホームページ等において閲覧を可能とする。
ただし、下記の図のとおり、デジタル化導入後も当面の間は紙媒体で届け出ることも可能とし、届け出られた紙媒体は国が委託した事業者が都道府県から紙媒体を入手して電子化を行い、都道府県に電子データを提供することになっています。
厚生労働省は、これらによって全国の医療法人の事業報告書等の情報を全て電子化された状態で国に蓄積し、全国規模のデータベースを構築・活用するとしています。
厚生労働省 第82回社会保障審議会医療部会 資料3「医療法人の事業報告書等の届出事務・閲覧事務のデジタル化について」より引用
4.デジタル化によって懸念される事項
第82回社会保障審議会医療部会の議事録によると医療法人による事業報告書等の届出事務のデジタル化については、現状大きな反対意見は出ていません。
一方、閲覧事務はデジタル化によって従来の時間的・場所的制約から解放されることになりますが、誰でも無制限に閲覧可能になることで、行き過ぎた営業活動等に利用されないかといった懸念の声が第82回社会保障審議会医療部会において示されました。
医療法人が届け出た事業報告書等については、請求することで誰でも閲覧可能であるのは紙媒体で行われている現在も変わりません。閲覧の際の手続については都道府県によって事前予約の有無等の差異があるものの、基本的には閲覧を請求する者が事業報告書等が保管されている都道府県庁等に来庁し、閲覧・複写を行うことになります。
厚生労働省はこれに対して運用は従来どおり都道府県に委ね、国で「申告なしに公表しなければならない」「データのコピー・印刷などを可能にしなければならない」といったルールを決めることはない旨の回答をしていますが、今後も閲覧方法や閲覧制限については議論を深めて、デジタル化のために必要な省令改正に向けて内容を詰めていく方針を示していますので、その動向は今後も注目すべき点になりそうです。
厚生労働省「医療法人の事業報告書等の届出事務・閲覧事務のデジタル化について」より引用
(文責:税理士法人FP総合研究所)