【No210】医療法人の出資の評価について②

 医業経営FP News №198で解説した医療法人の形態のうち、平成19年4月以前に設立した医療法人で持分の定めのある医療法人(経過措置型医療法人)は、財産評価基本通達に定める取引相場のない株式の評価に準じて評価し、相続税の課税対象とされます。このような医療法人は、過去の所得の蓄積で出資金の評価額が非常に高くなっているケースも多いことから、早めに相続対策を講じておくことが不可欠です。そこで、今回は持分の定めのある医療法人の出資金の評価の仕組みを解説します。

1. 取引相場のない株式の評価方法(原則的評価方式)

 原則的評価方式による場合における取引相場のない株式の評価方法は、会社の規模に応じて類似業種比準価額、純資産価額又はこれらを併用して評価することとされています。

(1)類似業種比準価額

 評価会社と事業内容が類似する業種に属する上場会社の平均株価に、「1株当たりの配当金額」、「1株当たりの年利益金額」及び「1株当たりの純資産価額」の3要素について評価会社と上場会社を比準させて計算する方法です。

 医療法人の類似業種は「その他の産業」に分類されます。なお、医療法人は剰余金の配当を行うことが禁止されているため、「1株当たりの年利益金額」と「1株当たりの純資産価額」の2要素で計算することとなります。

(2)純資産価額

 評価会社が課税時期において所有する資産及び負債を相続税評価額により計算した純資産価額から評価差額に対する法人税等相当額を控除した金額に基づき計算します。

2.比準要素数が1の会社に該当する場合

 取引相場のない株式の評価において、類似業種比準価額を計算する場合の3要素である「1株当たりの配当金額」、「1株当たりの年利益金額」及び「1株当たりの純資産価額」のうち、2以上が0である場合には、特定の評価会社に該当し、上記1の評価方法によらず、類似業種比準価額の利用が制限されることとなります。

 医業法人の出資金の評価においては、剰余金の配当が禁止されていることから、「1株当たりの年利益金額」及び「1株当たりの純資産価額」の2要素しか用いることができず、例えば、年利益金額が0以下となった場合には、比準要素数1の会社に該当することとなり、通常の法人であれば配当を行って比準要素数1の会社を回避するといった対策も講じることができません。

 赤字であれば株価も安くなるであろうと考えがちですが、一般的には、類似業種比準価額よりも純資産価額が高い法人が大半で、比準要素数1の会社に該当すると株式評価額は高くなってしまうケースが多いといえます。

(1)比準要素数1の会社

 比準要素数1の会社とは、類似業種比準価額の計算において使用する「1株当たりの配当金額」、「1株あたりの利益金額」及び「1株あたりの純資産価額(帳簿価額)」の比準要素のうち、直前期末における2の比準要素について「0」となっており、かつ、直前々期末における2以上の比準要素についても「0」となっている会社をいいます。

【比準要素数1の会社の評価方法】

 次の①又は②のいずれか低い価額

 ①類似業種比準価額×0.25+純資産価額×0.75

 ②純資産価額

(2)比準要素の判定期間

 類似業種比準価額の計算に用いる比準要素と比準要素数1の会社に該当するかの判定基準となる期間はそれぞれ異なります。

 なお、特定評価会社の判定においても、類似業種比準価額の計算においても、利益金額については、直前期による金額又は直前期末以前2年間の平均のいずれかを選択することができますが、これらの選択は、特定評価会社の判定の場合と類似業種価額の計算の場合とで異なる選択をすることも可能です。

*比準要素判定の際の端数処理

 端数処理を行って0円となる場合には、その比準要素は0とされます。端数処理は、「取引相場のない様式(出資)の評価明細書」の「第4表 類似業種比準価額等の計算明細書」の各欄の表示単位未満の端数を切り捨てることとされています。

・1株当たりの配当金額・・・・・・・・10銭未満切捨て

・1株当たりの利益金額・・・・・・・・円未満切捨て

・1株当たりの純資産価額・・・・・・・・円未満切捨て

・1株当たりの配当金額の比準割合・・・小数点2位未満切捨て

・1株当たりの利益金額の比準割合・・・小数点2位未満切捨て

・1株当たりの純資産価額の比準割合・・・小数点2位未満切捨て

・比準割合の計算における比準割合・・・・小数点2位未満切捨て

・1株(50円)当たりの比準価額・・・・10銭未満切捨て

・1株当たりの比準価額・・・・・・・・・円未満切捨て

 新型コロナウイルス感染症の影響で赤字となった医療法人もあるかと思いますが、その結果、株式評価においては比準要素数1の会社に該当し、純資産価額を用いる比率が高まり株価が高くなっている可能性がありますので、一度、株式評価を見直して頂き、現状を確認されることをお勧めします。

(文責:税理士法人FP総合研究所)