【No197】最低賃金の引き上げについて
令和3年7月16日の中央最低賃金審議会(厚生労働大臣の諮問機関)において、2021年度の最低賃金を全国平均28円の目安で引き上げる答申が取りまとめられました。28円は過去最大の引き上げ額となり(引き上げ率は3.1%)、現在の全国平均902円から930円となります。
今後は、各地方最低賃金審議会で、この答申を参考にしつつ、地域における賃金実態調査や参考人の意見等も踏まえた調査審議の上、答申を行い、各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定することとなります。
『厚生労働省ホームページ』|令和3年度地域別最低賃金額改定の目安について
既に東京都などは地方最低賃金審議会が開かれ、目安どおり28円を引き上げる答申を行い、10月には新たな最低賃金が適用される見通しとなっています。
最低賃金の引き上げについては賛否両論がありますが、医療機関の経営者にとりましては、主にパートタイマーの受付事務スタッフ等の人件費の増加が予想され、医業経営に一定程度の影響を及ぼすものと思われます。
そこで、今回は改めて最低賃金の基本的なポイントについてご案内致します。
1.全国の最低賃金時間額
今後、目安を参考に各都道府県ごとに引き上げ額が決定されますが、現在の最低賃金額に目安の28円を加えた最低賃金時間額は下表のとおりです。
『厚生労働省ホームページ』|「令和2年度地域別最低賃金額改定状況」を基に作成
2.最低賃金制度
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。
(1) 最低賃金額より低い賃金で契約した場合
仮に最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。
(2) 使用者が最低賃金を支払っていない場合
使用者が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合には、使用者は労働者に対してその差額を支払わなくてはなりません。
地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められています。
なお、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められています。
3.最低賃金の種類
最低賃金には、各都道府県に1つずつ定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。
「特定(産業別)最低賃金」は「地域別最低賃金」よりも高い金額水準で定められています。
※ 地域別と特定(産業別)の両方の最低賃金が同時に適用される労働者には、使用者は高い方の最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。
(1)地域別最低賃金
「地域別最低賃金」とは、産業や職種にかかわりなく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金です。各都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められています。
(2)特定(産業別)最低賃金
「特定(産業別)最低賃金」は、特定の産業について設定されている最低賃金です。関係労使が基幹的労働者を対象として、「地域別最低賃金」よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認める産業について設定されており、全国で228件の最低賃金が定められています(令和2年9月1日現在)。
4.適用される対象者
地域別最低賃金は、パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託など雇用形態や呼称に関係なく、セーフティネットとして各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます。
一方、特定(産業別)最低賃金は、特定の産業の基幹的労働者とその使用者に対して適用されます(18歳未満又は65歳以上の方、雇入れ後一定期間未満の技能習得中の方、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません。)。
5.派遣労働者の最低賃金
派遣労働者には、派遣元の事業場の所在地にかかわらず、派遣先の最低賃金が適用されますので、派遣会社の使用者と派遣される労働者は、派遣先の事業場に適用される最低賃金を把握しておく必要があります。
6.対象となる賃金
労働者に支払われる賃金のうち、最低賃金の対象となるのは毎月支払われる基本的な賃金です。残業代やボーナスは含まれませんので、注意が必要です。
最低賃金の対象となるのは毎月支払われる基本的な賃金なので、最低賃金を計算する場合には、実際に支払われる賃金から以下の賃金を除外したものが対象となります。
【最低賃金の対象とならない賃金】
(1)臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2)1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3)所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4)所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5)午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6)精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
7.最低賃金のチェック方法
支払われる賃金が最低賃金額以上となっているかどうかを調べるには、最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を以下の方法で比較します。
【最低賃金の計算方法】
(1)時間給の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
(2)日給の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、
日給≧最低賃金額(日額)
(3)月給の場合
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
(4)出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除した金額≧最低賃金(時間額)
(5)上記1〜4の組み合わせの場合
例えば基本給が日給制で各手当(職務手当等)が月給制などの場合は、それぞれ上の2、 3の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)と比較します。
8.最低賃金の周知義務
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者の範囲、最低賃金額、参入しない賃金及び効力発生日を常時作業場の見えやすい場所に掲示するなどの方法により周知する必要があります。
(文責:税理士法人FP総合研究所)