【No168】令和3年度税制改正大綱 発表

 毎年の我々の業界の注目である、令和3年度の与党税制改正大綱が去る12月10日に、発表されました。ここから、法案となり、閣議決定を受けて令和3年の通常国会に上程され、3月末に法律として成立するという流れになります。

 基本的に税制は租税法律主義であり、その法律は国会での多数決で決定されるため、与党の税制改正大綱がほぼ法律として制定されることとなります。

 そのために、この大綱をチェックし、この12月から3月末までの間に、改正される税制に対する対処を行うこととなります。

 では、その与党税改正大綱の内容はどのようなものか確認したいと思います。なお、このコラムでは、まだ法案化前のため概要のお伝えとさせていただければと考えています。

 文中の※印部分は解説や私見部分です。

【改正に関する基本的な考え方】

ウィズ・ポストコロナ・DX、カーボンニュートラル、格差の固定化の回避、中小企業の支援・地方創生、経済社会の構造変化、IR、震災復興。

1.所得税

(1)住宅ローン控除の緩和①

 控除期間13年間特例の延長措置(新築の場合:令和3年9月末まで、それ以外は令和3年11月末までの契約締結で、令和4年までの入居に限る)

(2)住宅ローン控除の緩和②

 ①に係る期間における、床面積要件50㎡から40㎡への緩和(合計所得が1,000万円以下の者に限る)

(3)証券税制

 特定口座内株式の譲渡等による事業所得の金額、雑所得の金額の計算上において、投資一任契約に係る費用を必要経費に算入可能とする。

(4)退職所得課税の適正化

 勤続年数が5年以下である者が、その退職手当等につき収入金額から退職所得控除を控除した残額のうち300万円を超える部分については、退職所得の計算上1/2とする措置を適用しないこととする。

2.資産税

(1)相続や贈与の課税時期において、短期日本国内居住の在留資格を有する者等が、相続開始時又は贈与時において国内に居住する在留資格を有する者から、相続もしくは遺贈又は贈与により取得する国外財産については、相続税又は贈与税を課さないこととする。

※高度外国人材に該当する、就労等のために日本に居住する外国人の相続を想定しているようです。

(2)直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の拡充①

 令和3年4月1日から同年12月31日までの間に契約を締結した場合における非課税限度額を、現状(令和2年4月1日から令和3年3月31日までの契約締結)と同額まで引き上げる。※本来は非課税額が減額される予定でした。

(3)直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の拡充②

 住宅の床面積要件を50㎡以上から40㎡以上に引き下げる(受贈者が贈与を受けた年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下の場合に限る)

(4)教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税措置の延長

 現行、令和3年3月31日までの贈与となっている制度について、一定の制限措置を講じたうえで、その適用期限を2年延長する。

 ※一定の制限とは、教育資金贈与については、贈与者が死亡した場合において、信託している資金に残額があるときは、その贈与者から相続等により取得したものとみなして課税されることとなっていましたが、この課税の際に直系卑属のうち子以外の者が課税される場合においても、相続税の二割加算の適用がありませんでした。それを今回の改正では、子以外の場合には2割加算の規定が適用されることとなります。

 また、贈与者の死亡3年以内に行われた贈与についてのみ加算でしたが、これも年数制限がなくなります。

(5)相続税・贈与税について

 ①個人版事業承継税制における、対象資産に青色申告書に記載されている乗用自動車(取得額500万円以下の部分に対応する部分に限る)を加える。

 ②非上場株式等に係る事業承継税制において、後継者が被相続人の相続開始直前において役員でない場合であっても、次に掲げる場合には適用を受けることができることとする。

  イ 被相続人が70歳未満(現行:60歳未満)で死亡した場合

  ロ 後継者が中小企業における経営承継円滑化法の確認を受けた特例承継計画に後継者として記載されている者である場合

3.法人税

(1)DX投資促進税制の創設

 産業競争力強化法の改正を前提に、令和5年3月31日までの間にソフトウェアの新設や増設、またはソフトウェアの利用に係る費用(繰延資産となるものに限る)の支出をした場合には、取得価額の30%特別償却又は取得価額の3%の税額控除との選択適用ができる(所得税についても同様とする)。

 なお、税額控除における控除税額は、下記(7)カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の税額控除制度による控除税額との合計で当期の法人税額の20%を上限とする。

(2)試験研究を行った場合の税額控除制度(研究開発税制)について、控除税率等を見直して2年延長する(所得税についても同様とする)。

(3)中小企業技術基盤強化税制について、控除税率等を見直して、適用期限を2年延長する。

(4)特別試験研究費の額に係る税額控除制度について、控除率等の見直しを行う。

(5)給与等の引き上げ及び設備投資を行った場合の税額控除制度を見直す(所得税についても同様とする)。

 ※今回の改正においては、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度において、国内新規雇用者に対しての給与等の支給に着目しています。

(6)繰越欠損金の控除上限の特例の創設

 産業競争力強化法の改正を前提に、同法の施行の日から同日以後1年を経過する日までの間に産業競争力強化法の事業適応計画(仮称)の認定を受けたもののうち、その事業適応計画に従って、同法の事業適応を実施するものの適用事業年度において、欠損金額がある場合には、その欠損金額については、欠損金の繰越控除前の所得の金額の範囲で損金算入できることとする。

 ※繰越欠損金について、資本金1億円以下の中小企業等には全額の繰り越しが認められていますが、大企業には上限が設けられています。現行、繰越控除前の所得金額の50%が控除限度額となっています。これが上記の要件(DXやカーボンニュートラル等に対して投資等をした場合)に該当すれば大企業でも100%可能となります。

(7)株式を対価とするM&Aを促進するための措置の創設

 法人が、会社法の株式交付により、その有する株式を譲渡し、株式交付親会社の株式等の交付を受けた場合には、その譲渡した株式の譲渡損益の計上を繰り延べることとする(所得税についても同様とする)。

(8)カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設

 産業競争力強化法の改正を前提に、中長期環境適応計画(仮称)についての認定を受けたものが、令和6年3月31日までの間に、一定の環境適応需要開拓製品生産設備を取得して、事業の用に供した場合には、その取得価額の50%の特別償却とその取得価額の5%の税額控除との選択適用ができることとする。ただし、税額控除における控除税額は、上記(1)のDX税額控除制度による控除税額との合計で当期の法人税額の20%を上限とする(所得税についても同様とする)。

(9)中小企業向け投資促進税制等

 ①中小企業者等の法人税の軽減税率の特例の適用期限を2年延長する。

 ②中小企業投資促進税制について、見直しを行ったうえ、その適用期限を2年延長する(所得税についても同様とする)。

  見直しの一部・・・対象となる指定事業に次の事業を加える。

  イ 不動産業

  ロ 物品賃貸業

  ハ 料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業(生活衛生同業組合の組合員が行うものに限る)

 ③中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(中小企業経営強化税制)について、適用期限を2年延長する(所得税についても同様とする)。

 ④特定事業継続力強化設備等の特別償却制度について、対象法人、対象資産などを見直す(所得税についても同様とする)。

  見直しの一部・・・対象試算に次の資産を加える

  イ 無停電電源装置

  ロ 感染症対策のために取得等をするサーモグラフィ

  ハ 資本的支出により取得等をする資産

  見直しの一部・・・令和5年4月1日以後に取得等をする資産の特別償却率を20%から18%に引き下げる。

 ⑤所得拡大促進税制の見直し

 中小企業における所得拡大促進税制について、一定の見直しを行ったうえで、その適用期限を2年延長する(所得税についても同様とする)。

 ⑥中小企業の経営資源の集約化に資する税制の創設(中小企業同士の再編後押し)

 中小企業等経営強化法の改正を前提に、令和6年3月31日までの間に中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けたものが、その計画に従って他の法人の株式等の取得(購入による取得に限る)をし、かつ、これをその取得の日を含む事業年度終了の日まで引き続き有している場合において、その株式等の価格の低落による損失に備えるため、その株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額は、その事業年度において損金算入できることとする。

 なお、この準備金は積み立て後において、一定の期間、一定の事象によって取り崩して益金算入する。

4.その他の税制

 ①固定資産税と都市計画税

 R3年度に限り、令和3年度の課税標準額を令和2年度の課税標準額と同額とする(結果、多くの土地の固定資産税・都市計画税が据え置かれることとなります)。

 ②自動車税及び軽自動車税の1%軽減措置の継続

5.納税環境整備

 ①税務関係書類における押印義務の見直し

 提出者等の押印をしなければならないこととされている税務関係書類について、次に掲げる税務関係書類を除き、押印を要しないこととするほか、所要の措置を講ずる。

  イ 担保提供関係書類及び物納手続き関係書類のうち、実印の押印及び印鑑証明書の添付を求めている書類

  ロ 相続税及び贈与税の特例における添付書類のうち財産の分割の協議に関する書類

 ※確定申告書等に認印が押印されていましたがこれらが不要となるということです。

 e-TAXで申告をされている方などは既に押印は無かったと思います。

 ②スマホ決済サービスによる納付手続きの創設

 国税の納付手続きが、スマホなどを利用した決済サービスで納税できるようになります(令和4年以降とのことです)。

6.今後の課題など

 ①住宅ローン控除の控除率の見直し

 現在の控除率、借入金残高の1%が昨今の銀行貸し出し金利と比較すると優遇されているとの会計検査院の指摘もあるため、控除額や控除率の見直しを令和4年度税制改正において見直す。

 ②年金課税についての見直し

 公的年金、企業年金、私的年金に関する公平な税制の在り方を検討する。

 ③小規模企業等に係る税制の見直しの検討

 個人事業主、同族会社、給与所得者の課税のバランスや勤労性所得に対する課税の在り方などにも配慮し、所得税や法人税を通じて総合的に検討する。

 ※同族会社(MS法人、資産管理会社)などに対する課税にも注目しているようです。

 ④結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置は、次の適用期限到来時に、制度の廃止も含め、改めて検討する。

 ※教育資金の贈与については、あえて触れられていませんでした、教育資金の贈与制度については、二割加算の適用などで一定の規制ができたと考えてのことかもしれません。

 ⑤相続税・贈与税の見直し

 諸外国においては、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、資産の移転のタイミング等にかかわらず、税負担が一定となり、同時に意図的な税負担の回避も防止されるような工夫が講じられている。

 今後、こうした諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検を進める。

 ※今後の大きな税制の改正は、この相続税となるかもしれません。相続税と贈与税を一体として課税する方向で検討しているようです。

 以上、税制改正大綱の抜粋で書き出させていただきました(細かく見ると他にも改正される税制はあります。)。

 今回の改正では、コロナ禍の状況下でもあり、厳しく改正を行うとか、大きな改正を行うなどのサプライズ的なものは無かったような気がしています。ただし、この状況が日常となった際には、また新たな税制の動きがありそうで、検討事項等にはそれを予見するような部分もあります。

 引き続き情報に対してアンテナを張り皆様へ提供ができればと考えおります。

(文責:高田隆央)