【No162】食事の現物支給に関する経済的利益について

 役員や従業員に対し、昼食などの食事代を負担している医療機関は少なくないものと思います。何気なく医療機関が負担した食事代が、税務調査で思わぬ指摘(源泉所得税の徴収漏れ)となる可能性があります。また、医療法人の場合、理事長自身の食事代を福利厚生費として処理している場合にも注意が必要です。よって、食事代を負担する場合の税務上の注意点をまとめてみました。

1.原則

 所得税法では、食事の現物支給は経済的利益に該当します。よって、食事の提供を受けた役員や従業員に対し、その経済的利益相当額を給与として課税されることとされています。

2.食事の支給による経済的利益はないものとする場合

 役員や従業員に食事を支給した場合において、次の二つの要件を満たしているときは給与(経済的利益)として課税されません。

 (1)役員や使用人が、食事の価額の半分以上を負担していること。

 (2)次の金額が、1か月当たり3,500円(消費税等の額を除きます。)以下であること。

   (食事の価額)-(役員や使用人が負担した金額)

 この二つの要件を満たしていない場合には、食事の価額から役員や使用人が負担した金額を控除した残額が給与として課税されます。

 なお、食事の価額とは、以下の区分に応じ、それぞれに掲げる金額をいいます。

(注)病院や産婦人科などの診療所は、医療機関が厨房業務を外注せず、医療機関自身が厨房業務を行っていることがあります。この場合は、「使用者が調理して支給する食事」に該当するため、人件費等の間接費を除いて評価することが可能です。しかし、厨房業務を外注している場合は、基本的に「使用者が購入して支給する食事」として評価することになります。

3.経済的利益に課税しない場合

 以下のいずれかに該当する場合には、その経済的利益は課税されません。

(1)残業や宿日直をした者に支給する食事

 医療機関が、残業又は宿日直をした者(その者の通常の勤務時間外における勤務としてこれらの勤務を行った者に限ります。)に対し、これらの勤務をすることにより支給する食事は、課税されません。

(2)深夜勤務をした者に支給する食事代

 深夜勤務者(労働協約や就業規則などに定められた正規の勤務時間による勤務の一部又は全部を午後10時から翌日午前5時までの間に行う者をいいます。)に対して、医療機関が厨房施設を有しないことなどの理由により深夜勤務に伴う夜食を現物で支給することが著しく困難であるため、1食当たり300円(消費税等の額を除きます。以下同じ。)以下の金額を勤務1回ごとに定額で支給する場合には課税されません。300円を超える金額を支給する場合には、支給する全額が給与として課税されます。

4.福利厚生費や会議費に該当する場合

 役員や従業員に食事を支給した場合でも、福利厚生費や会議費に該当するときは給与として課税する必要はありません。新型コロナウイルスの影響で自粛する医療機関が多いと推測しますが、例年、これからの時期に行う忘年会や新年会の費用は福利厚生費に該当します。また、医療機関で開催するミーティングなどの際に支給する弁当代が会議費に該当します。

5.理事長自身の食事代を福利厚生費として処理している場合など

 理事長自身の食事代を福利厚生費として処理している場合には、税務調査で役員賞与として指摘される可能性があります。役員賞与と認定されると、法人ではその金額が法人税法上、損金不算入になるとともに、源泉徴収義務違反となり、また、理事長には所得税・住民税が課されます。加えて、法人と理事長にそれぞれ延滞税等が課されます。

 一方、個人診療所の場合は、院長自身の食事代に経費性はないものと考えられます。税務調査で指摘されると必要経費不算入になり、院長に所得税・住民税が課税されます。なお、これらの本税のみならず、過少申告加算税や延滞税もあわせて課税されることも考えられます。

(担当:宮本 裕次)