【No158】「初診オンライン診療の解禁」について
令和2年9月16日に発足した菅義偉内閣の医療分野における重点政策のひとつとしてオンライン診療の推進、特に新型コロナウイルス感染症の流行に伴って令和2年4月より時限的・特例的対応となっている初診のオンライン診療の恒久化が掲げられていました。その中で、先日10月9日に河野規制行革相が記者会見においてオンライン診療を初診も含めて原則解禁することを田村厚労相、平井デジタル相との間で合意したと発表しました。今後電話診療は終了する見通しとなり、映像による診療が原則となるとされています。
そこで、オンライン診療の現況についてこれまでの経緯を含めて簡単に整理いたします。
1 経緯
オンライン診療は、導入当初「遠隔診療」と呼ばれ、対面医療の補完として、平成9年頃から離島やへき地の患者等に対して限定的に行われることを想定してスタートしています。
(各都道府県知事あて厚生省健康政策局長通知「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」)
その後、平成27年8月10日厚生労働省医政局長事務連絡において離島、へき地があくまで例示であることが確認されたことで、離島、へき地以外の患者に対するオンライン診療の制限が実質的に撤廃されることになりました。
そして、近年の情報通信技術の著しい進歩等により、オンライン診療に対する現場の要請が高まってきたことに伴い、平成30年3月に厚生労働省から「オンライン診療の適切な実施に関する指針 」が発表され、同年の平成30年度診療報酬改定において「オンライン診療料」等が創設されました。
ただし、この段階においても同指針では、
・ 得られる情報が視覚及び聴覚に限られる中で、可能な限り、疾病の見落としや誤診を防ぐ必要があること
・医師が、患者から心身の状態に関する適切な情報を得るために、日頃より直接の対面診療を重ねるなど、医師-患者間で信頼関係を築いておく必要があること
といった理由から禁煙外来や地理的に対面が困難である状況での緊急避妊など一部の例外を除いて「初診については原則直接の対面で行うべきである。また、オンライン診療の実施が望ましくないと判断される場合については対面による診療を行うべきである。」とオンライン診療はあくまで対面診療の補完であり、特に初診については対面診療によるという原則は守られていました。
2 令和2年の新型コロナウイルス感染症の流行に伴う規制緩和
今年に入り世界的な流行となった新型コロナウイルス感染症の影響により、3月以降オンライン診療の取り扱いに以下の表のとおり急激な変化が生じています。
特に4月7日の「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」閣議決定に基づく令和2年4月10日の厚生労働省事務連絡により従来から堅持されていた初診対面原則が時限的・特例的に緩和されることになりました。
年月 |
ポイント |
令和2年3月 |
【新型コロナウイルス感染症対応】 ・かかりつけ医等の判断で、既に診断され治療中の疾患の症状の変化については、診療計画を変更した上で、電話やオンライン診療による薬剤の処方可能(対面必要なく新たな症状への対応可) |
令和2年3月 |
安倍総理大臣(当時) 「医師、看護師を院内感染リスクから守るためにもオンライン診療を活用していくことが重要」令和2年3月31日 経済財政諮問会議 |
令和2年4月 |
令和2年度診療報酬改定 ・オンライン診療等の要件の見直し、対象患者の拡大 ・オンライン服薬指導の評価(令和2年9月~) |
令和2年4月 |
初診対面原則の時限的緩和(令和2年4月7日 規制改革推進会議決定) |
令和2年4月 |
「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」閣議決定 令和2年4月7日 ・初診対面原則の時限的緩和 ・1月当たりのオンライン診察料の算定回数の割合の制限(1割以下)の見直し |
令和2年4月 |
【初診対面原則の時限的・特例的対応】 ・既に診断され、治療中の慢性疾患で定期受診中の患者に対し、新たに別の症状についての診療・処方を行う場合 ・過去に受診履歴のある患者に対し、新たに生じた症状についての診療・処方を行う場合 ・過去に受診履歴のない患者に対して診療を行う場合(初診対面原則の緩和) ・過去に受診履歴のない患者に対し、かかりつけ医等からの情報提供を受けて、新たに生じた症状についての診断・処方を行う場合 |
令和2年4月 |
オンライン診療の時限的・特例的対応を歯科に拡大 「歯科診療における新型コロナウイルスの感染拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取り扱いについて」 |
令和2年10月 |
河野規制行革相が記者会見にて田村厚労相、平井デジタル相と以下の合意があったことを発表 令和2年10月9日 ・安全性と信頼性をベースに、オンライン診療を初診も含め、原則解禁する ・オンライン診療は電話ではなく映像を原則化する |
3 今後について
政府のオンライン診療に対するスタンスは、経済産業省が推進するIT導入補助金2020において、複数の事業者が提供するオンライン診療システムが補助金の対象ツールに選定されていることや、令和2年度第2次補正予算における「医療機関・薬局等における感染拡大防止等支援事業」の補助対象に「電話等情報通信機器を用いた診療体制等の確保」が具体的に例示されていることからも医療機関への積極的な導入を推進していることが伺えましたが、担当大臣間での合意段階とはいえ先般の発表でさらに大きく歩を進めたといえます。
一方、日本医師会は令和2年9月24日の定例記者会見で、(1)ICT、デジタル技術など技術革新の成果をもって、医療の安全性、有効性、生産性を高める方向を目指す、(2)解決困難な要因によって、医療機関へのアクセスが制限されている場合に適切にオンライン診療で補完する、(3)新型コロナウイルス感染症拡大下でのオンライン診療に係る時限的・特例的対応については改めてしっかりとした検証を行うことを要請するとオンライン診療の活用について一定の理解を示しつつも、従来の指針に基づいた慎重な立場を崩していません。
(参考:日本医師会 日医on-line http://www.med.or.jp/nichiionline/)
新型コロナウイルス感染症拡大下では、収束までの間、オンライン診療について都道府県単位の協議会が実績評価を行うことになっています。各都道府県は医療機関から個別事例を収集するため、そこにはさまざまな立場の患者の声も含まれて報告されることになります。従来は事例数の少なかったオンライン診療について実態に基づいたデータが収集されることから、オンライン診療の安全性・信頼性をどのように担保していくか、今後の制度設計・運用指針策定に際しての発展的な議論に寄与することが期待されます。
(担当:髙山 裕之)