【No492】債権の貸倒れの税務上の注意点
商売を行っていると、得意先の倒産などにより売掛金や貸付金などの債権を回収することができなくなり、不良債権が発生する場合があります。会社とすれば、債権の回収が出来ないと判断するとできるだけ早く貸倒損失の計上を行って、利益を圧縮させ、支払う税金を少なくしようと考えます。
しかし、税務上は、債権の貸し倒れを損金算入できる時期については、一定の規定が設けられています。
そのため、会社の考える「貸し倒れ」のタイミングと、税務上の損金算入が可能な「貸し倒れ」のタイミングにズレが生じていることがあるのです。
したがって、会社が考える「貸し倒れ」が発生した時点で貸倒損失を計上しても、法人税を計算する上では、損金に計上することができず、結果として支払う税金は減らないということが起こりうるのです。
このように、会計処理の時期を間違うと、債権金額の回収が出来ない上に、余分な税金も支払わなければならなくなることを防ぐためにはどのような手続きを行えば良いかを考えます。
1.貸し倒れの税務上の3つの適用基準
税務上、貸倒損失を計上する時期については、①法律上の貸し倒れ、②事実上の貸し倒れ、③形式上の貸し倒れの3つの適用基準を設けて制限をかけています。
2.税務上の適用基準ごとの注意点
① 法律上の貸し倒れ
会社更生法の適用や自己破産などの事実は、破産管財人などからの通知書類により貸し倒れ時期の判定を行います。通知を受けた書類は大切に保存し、損金算入の時期を正確に判断しなければなりません。
書面による債務免除は、債権者の同意が無くても可能です。しかし、後に税務調査等があった場合には、債務免除を行ったことが明らかになる書類を提示しなければなりません。内容証明郵便などにより債務免除の通知を行っておいた方が、損金算入が認められやすくなると考えられます。
税務上の損金算入を行うには、会計上の損金経理は必要ありませんが、法的整理があった事業年度にしか損金算入ができません。このタイミングを逃すと、永久に損金算入ができませんのでご注意ください。
② 事実上の貸し倒れ
事実上の貸し倒れとは、債務者が破産・和議・強制執行又は整理があった場合、債務者の死亡・失踪・行方不明・刑の執行などがあった場合、債務超過の状態が相当期間継続し、事業再開の見込みがない場合などの事実があったなどの理由により、債権の全額が回収できない場合に適用されます。
債権金額の一部分が回収できないことが明らかになっただけでは、損金算入ができません。また、金銭債権に担保物がある場合には、担保物の処分後にしか損金算入ができません。
経理要件として、会計上も損金経理を行わなければ、税務上の損金算入ができませんので、ご注意ください。
③ 形式上の貸し倒れ
形式上の貸し倒れの対象となる債権は、売掛債権に限られ、貸付金などには適用されません。
また、「取引」の内容には「売掛金の入金」なども含まれます。「商品の引き渡し」だけが「取引」ではありませんので、損金算入の時期には十分注意を払ってください。
経理要件は事実上の貸し倒れと同じく、会計上も損金経理を行わなければ、税務上の損金算入ができません。
3.事前のチェック体制の確立により貸し倒れを防ぐ
債権の貸し倒れに対処するために、会社がまず行うことは、得意先や貸付先の与信管理をしっかりと行い、不良債権が発生しないようにすることです。しかし、貸し倒れは普段から頻繁に発生するものではありません。
実務上の処理は、どうしても見落としがちになり、やむを得ず不良債権が発生する場合があります。不良債権の発生を防ぐためには、一定の時期に定期的に債権の与信チェックを行うなど、与信管理や会計処理の社内ルールの確立を普段から行っておくことが重要です。
(文責:税理士法人FP総合研究所)