【No481】地代家賃や生命保険料の前払いによる損金算入時期の特例

会社を経営していると、決算期直前に大きな取引が成立し、想定していたよりも多額の利益が計上されることがあります。

経営者にとって利益が計上されることはうれしいことですが、同時に、多額の納税が必要となります。

このような納税負担をできるだけ軽くするための方法の一つとして、一定の費用の短期前払費用という方法をご紹介いたします。

1. 短期前払費用による課税の繰り延べ

短期前払費用とは、一定の費用を期末に1 年分、一括して支払うことをいいます。通常であれば、費用は役務提供を受けた都度、税金計算上の経費として計算しますが、費用のうち一定のものについては、支払った1 年分の費用全額を経費として計算することができます。

1 年分の費用を経費としてすることができますので、多額の利益を圧縮させ、算出される税金を少なくすることが可能になります。

2. 短期前払費用として経費化できる費用の種類

短期前払費用として経費化できる費用は、どんなものでも良いわけではありません。前払いを行うことによって税金計算上に経費化できる費用は「一定の契約などに基づき支払われる費用で、その費用を支出することによって、継続して一定の役務の提供を受けることができる費用」になります。

具体的なものとしては、地代家賃や支払保険料、あるいは支払利息などが該当します。これらの費用は、支払方法がどうであれ、提供を受ける役務の内容が変わることはありません。このような費用は、1 年分を一括して支払うことにより、税金計算上の経費として認められることになります。

3. 1 年分を一括払いしても経費化できない費用の種類

給料手当や弁護士・税理士等の顧問料は、毎月定額の支払いを行っていたとしても、提供を受ける役務の内容は毎月一定ではありません。このような費用は、1 年分を一括して支払ったとしても、支出額全額を税金計算上の経費とすることはできませんので注意が必要です。

4. 短期前払いを行う際の注意点 1(経費として認められるの費用は最大1 年分)

費用の前払いが税金計算上の経費として認められ、会社の資金繰りに余裕が有る場合であれば「2~3 年分の費用を先に払ってしまおう」と考えるところです。しかしながら、短期前払費用を税金計算上の経費として認められるのは、1 年分の費用として支払った金額となります。1 年分以上の費用の前払いを行った場合には、税金計算上は当期に対応する部分の費用しか経費として認められませんので注意が必要です。

なお、支払った費用の金額が 1 年以内であれば、短期前払いの対象となりますので、2 か月や 3 か月、あるいは半年分を前払いすることは短期前払費用として認められ、経費として計上することは可能です。

5. 短期前払いを行う際の注意点 2(5 年程度は継続することが必要)

短期前払い費用を税金計算上の経費として認められるためには、毎年継続して支出を行っていることが条件となります。

事業年度ごとに、前払いと毎月払いを交互に行っている場合には、税務当局から「利益を操作しているのでは?」と疑われる可能性が有ります。短期前払費用を継続すべき期間が定められているわけではありませんが、最低5 年程度は費用の前払いを継続する必要があるといわれています。

6. 短期前払いを行う際の注意点 3(資金繰りにも配慮が必要)

短期前払費用については、未払計上を行った場合には経費化が認められず、実際に現金の支払いが必要となります。地代家賃の前払いを行う場合などには、一時に多額の現金が必要となりますので、決算期末までに現金支出の準備が必要となります。

また、短期前払いを毎年継続して行う場合には、翌決算時期にも多額の現金支出が必要となります。一度、短期前払いを行った後に、会社の業績が大きく悪化した場合には、たちまち資金繰りに窮することも想定されますので、短期前払いを実行する際は慎重に検討を行った上で行うことが必要です。

7. まとめ

短期前払費用による節税は、翌期に計上すべき費用を当期の費用として先取りし、2 期分の費用を当期中に経費化することによりその効果が発揮されます。従いまして、短期前払費用を行うことによる節税効果は、初年度の1 回に限られます。

次期以降は費用の前払いによる節税効果を受けることはできません。

しかしながら、期末に思いがけない利益が計上された場合などには、決算期直前に行うことが可能な節税方法としては、丁度よい方法の一つとなりますので、是非、ご検討ください。

(文責:税理士法人FP総合研究所)