【No467】中小企業の資金繰り支援 約束手形の決済を60日に短縮~手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について~

 通常、約束手形を発行する側(一般的には大企業などの得意先)は支払いを猶予できるが、受取り側(下請けなどの中小企業)は数か月に渡り現金化ができないため、その資金繰りが圧迫されます。期限を前倒しし、手形を割引いた場合には割引料が差し引かれ、売上げが実質的には減少してしまいます。そのため、手形決済までの期間の運転資金を確保するために借入れをする企業も少なくありません。

政府は、昨今の中小企業の人手不足や物価高等の経営を取り巻く環境を踏まえ、中小企業の資金繰りを圧迫する恐れのある、約束手形の運用を約60年ぶりに改めることとしました(手形の交付日から手形の満期までの期間を120日から60日へ)。

1.手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準について(経緯)

(1)指導基準の策定(1966年3月)

公正取引委員会及び中小企業庁は、1966年3月以降、業界の商慣習、親事業者と下請事業者との取引関係、その時の金融情勢等を総合的に勘案して、繊維業は90日、その他の業種は120日をほぼ妥当と認められる手形期間として、これを超える長期の手形を割引困難手形として指導。

(2)未来志向型の取引慣行に向けて(2016年9月)

重点課題の1つに「支払条件の改善」を位置づけ、業種別の下請ガイドラインや自主行動計画等を通じ、手形等(電子記録債権、一括決済方式(ファクタリング等))の支払期間の短縮を推進。

(3)中小企業等の活力向上に関するワーキンググループ(2021年1月)

下請代金の支払いの更なる適正化を図るため、2024年を目途に以下の徹底を図る。

手形サイトを60日に改善する

②割引料の親事業者による負担を進める

また、上記の進捗を踏まえながら、以下の実現に向けた検討を進める。

③割引率やファクタリングの手数料の低減を図る

約束手形の利用の廃止を進める

(4)手形通達(関係事業者団体に対する要請)の見直し(2021年3月)

①下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること

②手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること

下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること

④上記①~③までの要請内容については、新型コロナウイルス感染症による現下の経済状況を踏まえつつ、おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること

(5)手形通達の見直しに伴い、今後、おおむね3年以内(2024年内)を目途に指導基準を60日とすることを前提として見直しの検討を行うこととすることを公表

(6)成長戦略実行計画(2021年6月 閣議決定)

本年夏を目途に、産業界及び金融界による自主行動計画の策定を求めることで、5年後の約束手形の利用の廃止に向けた取組を促進する。まずは、下請代金の支払に係る約束手形の支払サイトについて60日以内への短縮化を推進する。

(7)サイトが60日を超える手形等により下請代金を支払っていた親事業者に対する要請(中小企業庁・公正取引委員会、2022年2月、2023年2月)

令和3年3月31 日に、公正取引委員会及び中小企業庁は、おおむね3年以内(令和6年)を目途として手形等のサイトを60 日以内とするよう、要請を行っています。また、当該要請に伴い、令和6年を目途として、サイトが60 日を超える手形等を下請法の割引困難な手形等に該当するおそれがあるものとして指導の対象とすることを前提に、下請法の運用の見直しを検討することとしています。そのため、貴社におかれましては、可能な限り速やかに手形等のサイトを60日以内としていただくようお願いいたします。

2.手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更についてのパブリックコメント

公正取引委員会は、これまで手形を下請代金の支払手段として用いる場合には、下請事業者の利益を保護する観点から、昭和41年以降、業界の商慣行、金融情勢等を総合的に勘案して、ほぼ妥当と認められる手形の交付日から手形の満期までの期間について、繊維業は90日、その他の業種は120日とし、親事業者がこれを超える長期の手形を交付した場合、割引困難な手形に該当するおそれがあるとして、その親事業者に対し、指導を行ってきました。そして今般、改めて業界の商慣行、金融情勢等を総合的に勘案して、業種を問わずその期間を60日と見直すにあたって、令和6年2月28日「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について(案)」に対する以下の意見募集(パブリックコメント)を行いました(令和6年3月28日を期限)。

➀約束手形の指導基準を新設し、手形の交付日から手形の満期までの期間を120日(繊維業は90日)か ら「60日」とする。

②一括決済方式が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導方針について、下請代金の支払期日から下請代金債権の額に相当する金銭を金融機関に支払う期日までの期間を120日(繊維業は90日)から「60日」とする。

③電子記録債権が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導方針について、下請代金の支払期日から電子記録債権の満期日までの期間を120日(繊維業は90日)から「60日」とする。

一部修正した上で、「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について」を策定した上で、令和6年11月1日から施行

出典:令和6年2月 公正取引委員会「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について」

(文責:税理士法人FP総合研究所)