【No365】仕入先である免税事業者との取引条件を見直す場合の注意点
令和4年1月19 日、財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省の連名により、「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」が発表され、消費税の適格請求書等保存方式(インボイス制度)に関し、事業者の方々から寄せられている質問、特に免税事業者やその取引先の対応に関する考え方が明らかにされました。今回は、その中でも最も関心が高いと思われる『Q7 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討していますが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となりますか。』の内容を見ていきます。
1.基本的な考え方
事業者がどのような条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものです。しかし、自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対してその地位を利用し、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、「優越的地位の濫用」として独占禁止法上問題となるおそれがあります。
仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すこと自体が問題となるのではなく、あくまで「優越的地位の濫用」に該当する行為を行うことが問題となります。以下では、「優越的地位の濫用」として問題となるおそれがある行為であるかについて、行為類型(①~⑤)ごとにその考え方をみていきます。
2.行為類型ごとの考え方
① 仕入先の免税事業者に対して『取引対価の引下げ』を要請
取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分(免税事業者からの課税仕入れはインボイス制度の実施後3年間は、仕入税額相当額の8割、その後の3年間は同5割の控除)について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。
しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合であって、免税事業者が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、「優越的地位の濫用」として、独占禁止法上問題となり得ます。
また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、その際、仕入先が納税義務を負うこととなる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、著しく低い取引価格を設定した場合についても同様に独占禁止法上問題となり得ます。
② 仕入先の免税事業者に対して『商品・役務の成果物の受領拒否、返品』
取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、仕入先から商品を購入する契約をした後において、仕入先が免税事業者であることを理由に、商品の受領を拒否することは、当該仕入先が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、「優越的地位の濫用」として問題となります。
また、同様に、当該仕入先から受領した商品を返品することは、どのような場合に、どのような条件で返品するかについて、当該仕入先との間で明確になっておらず、当該仕入先にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合、その他正当な理由がないのに、当該仕入先から受領した商品を返品する場合であって、当該仕入先が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、「優越的地位の濫用」として問題となります。
③ 仕入先の免税事業者に対して『協賛金等の負担等』を要請
取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対し、取引価格の据置きを受け入れるが、その代わりに、取引の相手方に別途、協賛金、販売促進費等の名目での金銭の負担を要請することは、当該協賛金等の負担額及びその算出根拠等について、当該仕入先との間で明確になっておらず、当該仕入先にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合や、当該仕入先が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり、当該仕入先に不利益を与えることとなる場合には、「優越的地位の濫用」として問題となります。
その他、取引価格の据置きを受け入れる代わりに、正当な理由がないのに、発注内容に含まれていない役務の提供その他経済上の利益の無償提供を要請することは、当該仕入先が今後の取引に与える影響を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、「優越的地位の濫用」として問題となります。
④ 仕入先の免税事業者に対して『他の商品・役務の購入・利用』の強制
取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対し、取引価格の据置きを受け入れるが、その代わりに、当該取引に係る商品・役務以外の商品・役務の購入を要請することは、当該仕入先が、それが事業遂行上必要としない商品・役務であり、又はその購入を希望していないときであったとしても、今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には、「優越的地位の濫用」として問題となります。
⑤ 仕入先の免税事業者に対して『取引の停止』の要請
取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対して、一方的に、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格など著しく低い取引価格を設定し、不当に不利益を与えることとなる場合であって、これに応じない相手方との取引を停止した場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあります。
出典:財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」
(文責:税理士法人FP総合研究所)