【No356】新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な場合の国税の猶予制度
長引く新型コロナウイルス感染症の影響により、一時に納税をすることが困難な事業者の方もいらっしゃることと思います。
令和2年4月30日の新型コロナ税特法の成立・施行により創設された「納税の猶予の特例(特例猶予)」は、申請期限である令和3年2月1日をもって終了いたしましたが、現在でも国税通則法に基づく納税猶予制度ができます。
そこで、新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な方等に向けて、国税の猶予制度の基本的な取扱いについて解説します。
1.猶予制度とは
国税を一時に納付することによって事業の継続や生活が困難となるときや、災害で財産を損失した場合などの特定の事業があるときは、税務署に申請することで、最大1年間、納税が猶予され、また猶予期間中は延滞税が軽減(令和3年中の割合 通常年8.8%→軽減後年1.0%)されます。
主な猶予制度には「換価の猶予」と「納税の猶予」があります。
2.換価の猶予とは
納税者が納付すべき国税を納付しない場合には、通常、その財産の差押え、公売、換価代金の充当という一連の手続で国税の徴収が図られます。ただし税務署長は、これらの手続を進めないで、滞納処分による財産の換価を猶予することができます。これが換価の猶予です。
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換価の猶予の要件
①一時の納税により、事業の継続・生活維持が困難となるおそれがあること。
②納税について誠実な意思があること。
③納期限から6か月以内に申請があること。
④猶予を受けようとする国税以外に滞納がないこと。
ちなみに、新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な場合は、担保の提供が明らかに可能である場合を除いて担保は不要です。
- 換価の猶予の主な効果
①原則として1年間納税が猶予されます(状況に応じて更に1年間猶予される場合があります。)。
②猶予期間中の延滞税が軽減(通常 年8.8%→軽減後 年1.0%(令和3年中の割合))されます。
③差押財産の換価(売却)が猶予(禁止)されます。
3.納税の猶予とは
以下のような個別の事情がある場合は、納税の猶予が認められます。納税の猶予は換価の猶予よりも強力な制度であるため、その猶予にかかる国税について、新たに督促や滞納処分を受けることがありません(換価の猶予の場合は、督促状は発行されますし、場合によっては財産の差押えを受けることがあります)。
- 納税の猶予の要件
①新型コロナウイルス感染症に関連するなどして 、 以下のようなケースに該当すること 。
・新型コロナウイルス感染症の患者が発生した施設で消毒作業が行われたことにより、備品や棚卸資産を廃棄した。
・納税者ご本人又は生計を同じにするご家族が病気にかかった。
・納税者の方が営む事業について、やむを得ず休廃業をした。
・納税者の方が営む事業について、利益の減少等により、著しい損失を受けた。
②上記①があることにより、一時の納税ができないこと。
③申請があること
ちなみに、新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な場合は、担保の提供が明らかに可能である場合を除いて担保は不要です。
- 納税の猶予の主な効果
①原則として1年間納税が猶予されます(状況に応じて更に1年間猶予される場合があります。)。
②猶予期間中の延滞税が軽減(通常 年8.8%→軽減後 年1.0%(令和3年中の割合))されます。
※個別の事業がある場合は、延滞税なしで納税の猶予が認められることがあります。
③財産の差押えや換価(売却)が猶予(禁止)されます。
4.猶予を受けられる期間について
猶予の適用期間については、通常、納税者の収入や支出の状況など個々の実情に応じて最短の期間となりますが、新型コロナウイルス感染症の影響により資金繰りが困難な方については、迅速かつ柔軟に対応するため、納税者から特段の申出がない限り1年間猶予されるようです。
また猶予の適用期間は原則1年間ですが、猶予期間内に納付ができないやむを得ない理由がある場合は、猶予期間を延長することができます。
5.一時に納税が困難とは
「一時に納付が困難」とは、納付すべき国税の全額を一時に納付する資金がないこと、又は納付すべき国税の全額を一時に納付することにより納税者の事業の継続若しくは生活の維持を困難にすると認められることをいいます。
具体的には、納付可能金額(手元資金-当面の資金繰りに必要な額)が納付すべき国税の額に満たないケースが該当します。
当面の資金繰りに必要な額は、納税者個々の事業の状況や資金繰りの状態により異なりますので一概には言えませんが、一般的には、事業継続のため1か 月以内に支出が予定されている金額は運転資金として納税資金から除外します。なお、1か月以内に支出が予定されている金額でなくても、その資金の支出が当面の事業の継続のため決まっている場合等は運転資金として加算できます。
6.担保の提供の要否
猶予を受けるためには担保の提供が必要となる場合がありますが、新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な方については、明らかに担保を提供できる状況でない限り、担保は不要とされています。
7.特例猶予とは
特例猶予は、「 新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律」により創設されたもので、無担保かつ延滞税なしで、一年間納税を猶予する制度ですが、その対象は、令和2年2月1日から同3年2月1日までに納期限が到来する国税となっています。
そのため、令和3年2月1日より後に納期限が到来する国税については、特例猶予を受けることができません。
8.延滞税の発生時期
換価の猶予は納期限から6か月 以内に申請する必要がありますが、延滞税は納期限の翌日から発生しますので、納期限を過ぎて申請されると、納期限の翌日から猶予申請日の前日までの間は延滞税が軽減されないこととなります。
なお申告期限の延長の適用を受けている法人については、その延長期間中の延滞税の割合は、猶予制度の軽減後の延滞税の割合と同じ割合(令和3年中)となっています。そのため延滞税の負担の観点から、延長後の申告期限内に猶予申請をすればいいということになります。
(文責:税理士法人FP総合研究所)