【No329】経営者が保有しておくべき議決権割合について

 取引相場のない株式を保有する経営者の方の相続対策を考えるうえでは、自社株の贈与は最もシンプルでありながら、効果的な対策の1つといえます。

 しかし、保有する株数は会社の議決権割合にも影響するため、相続対策ばかりに目を奪われ、経営者自らの議決権数が少なくなり過ぎると、会社の意思決定権も失ってしまうことになりかねません。また、後継者が決まっている場合には、将来、後継者が一定以上の議決権割合を確保できるように考えたうえで、贈与プランを実行する必要があります。

 そこで、経営者が保有しておくべき議決権割合について解説するとともに、贈与をしながらでも、経営者の議決権割合を維持するための方法についてもご紹介します。

1.株主総会決議の成立要件

 株主総会の決議には、決議事項の重要度に応じて、普通決議、特別決議、特殊決議の3つの基準が設けられており、それぞれ定足数と決議要件が定められています。

2.種類株式の発行による議決権の確保

 会社法においては、内容の異なる2以上の種類の株式(種類株式)を発行することができることとされています。

(1)議決権制限株式の利用

 種類株式のうち、「議決権制限株式」は、議決権を行使できる事項を制限することができ、株主総会のすべての決議事項について議決権のない株式(無議決権株式)を発行することも可能です。

 例えば、自己が100%の普通株式を保有していた場合において、子や孫へ株式を贈与するにあたり、99%を無議決権株式へ変更したうえで、贈与することにより、1%の普通株式を有しているだけであって、議決権は100%確保していることとなります。

(2)拒否権付種類株式の利用

 基本的には後継者に経営を任せるつもりであり、株式を移転することに抵抗がない場合でも、議決権の大半を有することとなった後継者が暴走しないようにしたいときには、「拒否権付種類株式」を発行し、その株式だけは所有しておくようにしておく方法が有効です。

 「拒否権付種類株式」は、株主総会の決議事項について総会決議のほかに当該種類の種類株主総会決議を必要とするもので、議案の成立を拒否することができるため、「黄金株」とも言われています。

3.属人的定めによる議決権の確保

 譲渡制限会社においては、会社法において、①剰余金の配当を受ける権利、②残余財産の分配を受ける権利、③株主総会における議決権の3つについて、種類株式を発行しなくても、定款において、株主ごとに異なる取扱いを行うことが定めることができることとされています。

 属人的定めによれば、特定の株主が所有する株式については、「1株につき100個の議決権を有する」といったような定めをすることができます。

4.まとめ

 経営者において議決権割合は非常に重要です。各種決議を考えると3分の2以上の議決権を支配できるようにしておくことが重要です。

 種類株式の発行は登記事項とされているため、費用はかかりますが、第三者に対しても議決権の制限内容などが明確になります。しかし、特定の株主が所有している株式だけを種類株式にするためには、総株主すべての同意が必要となり、株式が分散してしまった後では採用しにくい面もあります。

 一方、属人的定めは、登記事項ではなく、株主総会において、議決権を行使可能な株主の半数以上、かつ、議決権行使可能な株主の議決権の2/3以上があれば成立させられます。

 これらの方法を採用し、経営の安定を図りながら、計画的な事業承継を行うことが大切です。

(文責:税理士法人FP総合研究所)