【No325】自社株の贈与における注意点
非上場株式の贈与は、登記が必要な不動産の贈与と違って、贈与税の申告さえしておけば問題ないと考えられている方もいらっしゃるかも知れません。
しかし、贈与をしたつもりの自社株が相続税の税務調査で名義人の財産でなく、被相続人の財産であるとして、相続財産として認定されるケースは珍しくありません。
そこで、将来、相続税の税務調査があっても、税務署に過去に贈与があったとしっかり認定してもらえるために注意しておきたいポイントについて解説します。
1.株式譲渡制限会社における株式移動の手続
(1)譲渡制限会社とは
株式は、原則として自由に譲渡できることとされています(会社法127)が、中小企業の大半は、非公開会社であり、株式について譲渡制限が設けられています。
株式譲渡制限会社では、定款において、譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨を定めることができます。(会社法107Ⅰ①・Ⅱ①)。
そのため、株式譲渡制限会社では、その株式を贈与する場合にも、会社の承認を受けなければなりません。
【譲渡制限株式に関する定款の表示】
(株式の譲渡制限)
当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を要する。
(2)譲渡承認請求手続
譲渡制限株式の株主は、その株式を譲渡する場合には、会社に対して譲受人がその株式を取得することについて承認するか否かの決定をすることを請求することができるとされています。(会社法136・137)
なお、その承認は、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会の決議によることとされています。ただし、取締役会設置会社であっても、定款に別段の定めがある場合には、株主総会とすることもできます。(会社法139Ⅰ)
(3)譲渡制限株式の贈与時に作成しておくべき書類
●譲渡承認請求書
●取締役会議事録又は株主総会議事録
●譲渡承認通知書
●贈与契約書
定期的な税務調査でこれらの議事録の提示を求められることは少ないかも知れませんが、相続税の税務調査では、会社へ調査官がやってきて、会社に対し議事録等の提示を求めてくることは考えられます。
重要な贈与の実態を示す書類として議事録等をその都度、きっちりと作成し、大切に保管しておくことが必要です。
2.贈与の実態を証明するための準備
(1)株主名簿の作成
株券を発行している会社の場合には、その名義を確実に変更しておくことが必要です。
実際には株券を発行していない会社がほとんどであると思われますが、株券を発行していない場合でも、株主名簿の書き換えを行っておくことが必要です。
株券不発行会社の株式については、株主名簿の名義書換えをしなければ、会社及び第三者に対し対抗することができないとされています。株券発行会社であっても、株主名簿の書換えをしなければ、会社に対して対抗できないこととされているのです。(会社法130)
株主構成は、法人税の別表二に記載して税務署へ提出しているから問題ないという声を耳にしますが、法人税の申告書の別表二に記載されている株主構成は同族会社の判定を行うものであり、別表二に記載されているからといって株主であるという証明にはなりません。
【会社法に定められている株主名簿記載事項】(会社法121)
①株主の氏名・名称及び住所
②当該株主の保有株式数・種類
③当該株主の株式取得日
④当該株式に係る株券の番号(株券発行会社の場合)
⑤質権の登録
⑥信託財産の表示
⑦振替株式に関する事項
(2)株主総会における議決権の行使
中小企業においては株主総会の開催の実態自体も確認できない場合も多いかも知れませんが、株式の贈与を受けたからには、議決権を行使して、自らが株主であるという認識があったことを明確にしておくことが重要です。
株主総会の開催案内を送付した記録や株主総会の議事録などの記録を残して、名義人自身が株主総会に出席していたことや委任状を提出した実態などを証明できるようにしておくとよいと思われます。
(3)配当の受領
配当を行った場合に、その配当金を贈与者が保管・管理しているときには、その株式は贈与があったとは認められず、実質的な所有者は贈与者であるものとされ、名義人の財産と認められない可能性が高くなります。
株式の贈与を行った後は、その株式に係る配当金は受贈者自身が管理する口座に入金し、その金銭を名義人が管理・運用するようにしておくことが大切です。
(文責:税理士法人FP総合研究所)