【No308】事業廃止時の残余財産に係る消費税についての注意点

 消費税法において課税対象は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等とされています。

 事業者が事業を廃止する場合、法人の清算時における株主への現物による残余財産の分配であっても消費税の課税対象とはなりません。その一方で、個人事業者が事業の廃止時において有している事業用資産を家事のために消費し又は使用した場合、資産の譲渡等とみなされて消費税の課税対象(みなし譲渡)となりますので、申告漏れがないように注意が必要です。

1.会社の清算における残余財産の現物分配に係る消費税

 残余財産とは会社が解散・清算する際に、資産を現金化し、負債を返済して、最後に残った財産のことです。通常は現預金のみとなりますが、例外的に土地・建物などの現物が残ることがあります。

 その場合、株主に対して金銭以外に当該現物を分配することとなりますが、そもそも残余財産の分配は、投下された資本の返戻の性格を有するものと認められることから対価性のない取引に該当します。そのため、残余財産の現物分配については、消費税法上は資産の譲渡等には該当しないので、課税対象とはなりません。

2.個人の事業廃止時の事業用資産の家事消費又は使用(以下、転用)に係る消費税

 個人事業を廃止する場合にも資産を現金化し、負債を返済して財産を整理することになります。ただ、個人の場合は法人とは異なり、一部の資産(例えば車両など)について事業用から家事用に転用することが往々にして起こりえます。

 このように個人事業者が事業用資産を家事用に転用した場合には、消費税法上は事業として対価を得て行われた資産の譲渡とみなす(みなし譲渡)こととされていて、消費税の課税対象となります。

 そして個人事業の廃業時も同様に、事業廃止に伴って事業用資産に該当しなくなった資産は、原則として、事業廃止時に家事用に転用したものとして、みなし譲渡したものとして取り扱われ、消費税の課税対象となります。なお資産とは棚卸資産及び棚卸資産以外の資産のことをいいます。棚卸資産以外の資産の消費税の課税標準額は、原則としてこれらの資産の時価となります。ただ、資産の状況等によっては未償却残高を用いることもできます。

 また、個人事業者の個人事業を廃止して、事業を法人化する際にも消費税の課税関係が生じます。まず、事後設立を含む事業用資産を法人へ譲渡する場合には、当然に資産の譲渡等に該当しますので消費税の課税対象となります。また、会社への事業用資産の現物出資についても、対価を得て行われる資産の譲渡等に類する行為として資産の譲渡等に該当するため、消費税の課税対象となります。なお、現物出資の課税標準は、現物出資により取得する株式の時価となります。ちなみに、同じ事後設立や現物出資でも、法人が行う場合で、新たに設立する法人に事業の全部または一部を引き継ぐときには、消費税の課税対象とはなりません(合併や会社分割と同様の取扱いになります)。

 なお、会計検査院の平成30年度決算検査報告によれば、平成27年から平成29年までに事業を廃止した個人事業者で、事業廃止時に100万円以上の資産(棚卸資産以外の未償却残高合計)を有していた349人のうち、これらの資産を消費税の課税標準額に計上していることが確認できなかった者は305人となっています。このことからも個人事業を廃業した者において当該資産に係る消費税の申告が漏れているケースが多くることが推測されます。

 その後、会計検査院の指摘に基づいて「事業廃止届出書」の記載要領にこれら事業廃止時の消費税の取扱いについて追記がされるなど、国税庁も事業廃止時の消費税の課税漏れについて調査を徹底していくと思われますので、廃業時の消費税の取扱いには注意が必要です。

(文責:石田一)