【No998】小規模宅地等の特例~老人ホーム入居後に自宅を建替えた場合~
小規模宅地等の特例における特定居住用宅地等の適用においては、被相続人等の居住の用に供されている宅地等であることが前提とされています。しかしながら、老人ホームに入居したことで被相続人が相続開始時に実際に居住していなかったとしても、小規模宅地等の特例の適用にあたって、老人ホームの入居後に被相続人等以外の者の居住の用に供されていないなどの一定の要件を満たすことで、被相続人の居住の用に供されていた宅地等として取り扱うこととされています。そうすると、被相続人が老人ホームへ入居した後にその自宅を建替えた場合に特例の適用の可否について疑義が生じることとなります。そこで、今回は被相続人が老人ホームへの入居後に自宅を建替えた場合の取扱いについて検討しました。
(1)老人ホームへの入居により相続開始時点で被相続人の居住の用に供されていない家屋の敷地についての小規模宅地等の特例の適用について
小規模宅地等の特例のうち特定居住用宅地等については、相続開始の直前において被相続人等(生計一親族を含む)の居住の用に供されていた宅地等が対象になりますが、老人ホーム入居に伴い相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等の場合であっても、次の要件を満たすときは、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当することとされています。
①被相続人が相続開始直前において介護保険法等に規定する要介護認定等を受けていたこと。
②被相続人が老人福祉法等に規定する特別養護老人ホーム等に入居等していたこと。
③被相続人の老人ホーム等への入居後に当該宅地等が事業の用に供されていないこと。
④被相続人の老人ホーム等への入居後に被相続人又はその被相続人と生計を一にしていた親族以外の者の居住の用に供されていないこと。
(2)老人ホームへの入居後に自宅を建替えた場合の小規模宅地等の特例の適用について
当該特例は法令上、相続開始の直前に被相続人等の居住の用に供されていた宅地等が対象で、あくまで被相続人が居住の用に供していた宅地等に適用されるため、被相続人が老人ホームに入居する前後で居住していた自宅が物理的に全く同じ家屋であることまでは求められていません。
また、自宅の建替え中で相続開始の直前に被相続人が居住していなかった場合でも、被相続人はその自宅に居住していたものと考えて、当該特例の適用を認めるといった取扱いがあります。(租税特別措置法関係通達69の4-8等)
【租税特別措置法関係通達69の4-8《居住用建物の建築中等に相続が開始した場合》】
(注)上記の取扱いは、相続の開始の直前において被相続人等が自己の居住の用に供している建物(被相続人等の居住の用に供されると認められる建物の建築中等に限り一時的に居住の用に供していたにすぎないと認められる建物を除く。)を所有していなかった場合に限り適用があるのであるから留意する。
租税特別措置法関係通達69の4-5《事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合》の取扱いは下記のとおりです。
なお、当該被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族又は当該建物等若しくは当該建物等の敷地の用に供されていた宅地等を相続若しくは遺贈により取得した当該被相続人の親族が、当該建物等を相続税の申告期限までに事業の用に供しているとき(申告期限において当該建物等を事業の用に供していない場合であっても、それが当該建物等の規模等からみて建築に相当の期間を要することによるものであるときは、当該建物等の完成後速やかに事業の用に供することが確実であると認められるときを含む。)は、当該相続開始直前において当該被相続人等が当該建物等を速やかにその事業の用に供することが確実であったものとして差し支えない。
(注) 当該建築中又は取得に係る建物等のうちに被相続人等の事業の用に供されると認められる部分以外の部分があるときは、事業用宅地等の部分は、当該建物等の敷地のうち被相続人等の事業の用に供されると認められる当該建物等の部分に対応する部分に限られる。
これらの法令規定や制度趣旨などが考慮され、老人ホーム入居後に自宅を建替え、その建替え後の自宅に被相続人が居住することなく老人ホームに入居中に相続が開始した場合でも、その自宅の敷地は「相続開始の直前に被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」に該当し、被相続人の配偶者や一定の要件を満たす被相続人の自宅で同居していた親族などが、その自宅の宅地等を相続等で取得した場合には、「特定居住用宅地等」に該当して特例の適用が可能になると考えられます。
(文責:税理士法人FP総合研究所)