【No981】兄弟姉妹の代襲相続人の範囲に関する最高裁判決について

被相続人の親と養子縁組をしたことにより兄弟姉妹となった者が法定相続人になる場合において、当該兄弟姉妹が被相続人の死亡前に死亡しているときは、養子縁組前に生まれた当該兄弟姉妹の子は、代襲相続人に該当するかどうかについて争われた訴訟の上告審判決が11月12日、最高裁第3小法廷でありました。

結果としては、「引き継げる」とした二審・東京高裁判決を破棄し、「引き継げない」とする判断を示しましたので、最高裁判所判例集を基に解説させていただきます。

1.概要

1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

⑴ 被上告人らは、いずれもB(以下「B」という。)とその夫との間に出生した子である。C(以下「本件被相続人」という。)は、Bの母の姉であるD(以下「D」という。)の子である。Bは、被上告人らの出生後の平成3年▲月にDとの間で養子縁組をし、これにより本件被相続人の妹となった後、平成14年▲月に死亡した。

⑵ 本件被相続人は、平成31年▲月に死亡した。本件被相続人には、子その他の直系卑属及びB以外の兄弟姉妹はおらず、死亡時においては直系尊属及び配偶者もいなかった。

⑶ 被上告人らは、令和2年6月22日、民法889条2項において準用する同法887条2項の規定によりBを代襲して本件被相続人の相続人となるとして、本件被相続人の遺産である第1審判決別紙物件目録記載1の土地及び同目録記載2の建物につき、相続を原因とする所有権移転登記及び持分全部移転登記の各申請をした。

横浜地方法務局川崎支局登記官は、同年9月2日付けで、上記各申請は不動産登記法25条4号の「申請の権限を有しない者の申請」に当たるとして、これを却下する旨の各決定(以下「本件各処分」という。)をした。

2 本件は、被上告人らが、上告人を相手に、本件各処分の取消しを求める事案である。

3 原審は、上記事実関係の下において、要旨次のとおり判断し、本件各処分は違法であるとして、被上告人らの請求を認容した。

民法889条2項により同条1項2号の場合に同法887条2項の規定を準用するに当たっては、同項ただし書の「被相続人の直系卑属でない者」を「被相続人の傍系卑属でない者」と読み替えるのが相当であり、本件被相続人の傍系卑属である被上告人らは、Bを代襲して本件被相続人の相続人となることができる。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

⑴ 民法887条2項ただし書は、被相続人の子が相続開始以前に死亡した場合等について、被相続人の子の子のうち被相続人の直系卑属でない者は被相続人の子を代襲して相続人となることができない旨を規定している。これは、被相続人の子が被相続人の養子である場合、養子縁組前から当該子の子である者(いわゆる養子縁組前の養子の子)は、被相続人との間に当該養子縁組による血族関係を生じないこと(民法727条、大審院昭和6年(オ)第2939号同7年5月11日判決・民集11巻11号1062頁参照)から、養子を代襲して相続人となることができないことを明らかにしたものである。そうすると、民法889条2項において準用する同法887条2項ただし書も、被相続人の兄弟姉妹が被相続人の親の養子である場合に、被相続人との間に養子縁組による血族関係を生ずることのない養子縁組前の養子の子(この場合の養子縁組前の養子の子は、被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者に当たる。)は、養子を代襲して相続人となることができない旨を定めたものと解される。

したがって、被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者は、被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができないと解するのが相当である。

⑵ これを本件についてみると、被上告人らは、本件被相続人とBの共通する親であるDの直系卑属でないから、Bを代襲して本件被相続人の相続人となることができない。

5 以上によれば、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、被上告人らの請求は理由がなく、これを棄却した第1審判決は正当であるから、被上告人らの控訴を棄却すべきである。

2.解説

代襲相続権について、直系尊属に関しては、養子縁組前に出生した子は被相続人の子が相続開始以前に死亡した場合等について、被相続人の直系卑属に該当しない者は代襲して相続人となることができないとされています。

下図で説明しますと、被相続人甲がX15年にAと養子縁組をしているケースで、被相続人甲の相続開始前に養子Aが以前死亡している場合は、養子Aの子であるBは養子縁組前に出生した者であるため、被相続人甲の直系卑属には該当しないこととなり、代襲相続人には該当せず、養子Aの子であるCは養子縁組後に出生した者であるため、被相続人甲の直系卑属に該当し、養子Aの代襲相続人として被相続人甲の法定相続人となります。

今回の判例は、直系関係ではない傍系関係での代襲相続権について示したものであり、今後の取り扱いを明確化したものとなります。

3.対策

今回争いとなったケースでは、結果的に法定相続人がいないこととなり、この場合の流れとしては、「【相続人不存在の確定】→【特別縁故者への財産の全部または一部分与】→【残った財産は国庫に帰属】」となります。

特別縁故者として財産分与の申立をできる者は、下記のいずれかの要件を満たす者とされています。

・被相続人と生計を同じくしていた者

・被相続人の療養看護に努めた者

・その他被相続人と特別の縁故があった者

財産を遺したい者や法人等がある場合は、遺言の作成が最も有効な手段となります。

親戚にも相続権があるだろうから何も対策していないといった誤った認識をされているケースが見受けられますので、子や兄弟姉妹がいない方は、ご自身の法定相続人の有無を確認して遺言の作成などの対策をされることをお勧めします。

(文責:税理士法人FP総合研究所)