【No977】配偶者に対する相続税額の軽減を受けない方が有利な場合

配偶者に対する相続税額の軽減は、適用を受けた方が必ず有利になるとは限りません。例えば、双方ともに多額の財産を有する夫婦に相次いで相続が発生した場合には、配偶者に対する相続税額の軽減を受けると、かえって税負担が増加する場合があります。以下の設例で確認します。

1. 具体例

被相続人:夫A    相続人:妻B、長男C、二男D    夫Aの遺産.:20億円    妻Bの遺産.:10億円

前提条件:Aが死亡した半年後にBも死亡

※まだA及びBの遺産分割は完了していないため、すべての財産を法定相続分により申告するものとする。

2. 計算

【 計算1:配偶者に対する相続税額の軽減を受ける場合 】

《第一次相続》

〈課税遺産総額〉Aの遺産総額20億円 - 基礎控除額4,800万円 = 19億5,200万円

〈相続税の総額〉

19億5,200万円 × 1/2 × 55% - 7,200万円 = 4億6,480万円

19億5,200万円 × 1/4 × 50% - 4,200万円 = 2億200万円    

19億5,200万円 × 1/4 × 50% - 4,200万円 = 2億200万円 合計:8億6,880万円

〈納 付 税 額〉

B:0円( 配偶者の税額軽減4億3,440万円 ) C:2億1,720万円 D:2億1,720万円

合計:4億3,440万円・・・① 

《第二次相続》

〈課税遺産総額〉Bの遺産総額10億円 + Aから相続した遺産10億 - 基礎控除額4,200万円 = 19億5,800万円

〈 相続税の総額 〉

19億5,800万円 × 1/2 × 55% - 7,200万円 = 4億6,645万円

19億5,800万円 × 1/2 × 55% - 7,200万円 = 4億6,645万円 合計:9億3,290万円

〈納 付 税 額〉

C:4億6,645万円 D:4億6,645万円 合計:9億3,290万円・・・②

《第一次相続と第二次相続の合計》① + ② = 13億6,730万円

【 計算2:配偶者に対する相続税額の軽減を受けない場合 】

《第一次相続》

〈課税遺産総額〉Aの遺産総額20億円 - 基礎控除額4,800万円 = 19億5,200万円

〈相続税の総額〉

19億5,200万円 × 1/2 × 55% - 7,200万円 = 4億6,480万円

19億5,200万円 × 1/4 × 50% - 4,200万円 = 2億200万円 

19億5,200万円 × 1/4 × 50% - 4,200万円 = 2億200万円

〈納付税額〉

B:4億3,440万円(配偶者の税額軽減0円) C:2億1,720万円 D:2億1,720万円

合計:8億6,880万円・・・①

《第二次相続》

〈課税遺産総額〉..Bの遺産総額10億円 + Aから相続した遺産10億 - Bの納付すべき相続税額4億3,440万円

- 基礎控除額4,200万円 = 15億2,360万円

〈相続税の総額〉

15億2,360万円 × 1/2 × 55% - 7,200万円 = 3億4,699万円 

15億2,360万円 × 1/2 × 55% - 7,200万円 = 3億4,699万円 合計:6億9,398万円

〈納付税額〉

C:1億2,979万円( 3億4,699万円 - 相次相続控除2億1,720万円

D:1億2,979万円( 3億4,699万円 - 相次相続控除2億1,720万円

合計:2億5,958万円・・・②

《第一次相続と第二次相続の合計》① + ② = 11億2,838万円

上記の設例の場合、第一次相続では、配偶者に対する相続税額の軽減を受けずに、第二次相続において相次相続控除の適用を受けた方が、第一次相続と第二次相続通算の税負担は、2億3,892万円も軽くなります。場合によっては、配偶者に対する相続税額の軽減を受けない方が有利になる場合もあるため、適用の可否については、十分に注意が必要です。

(文責:税理士法人FP総合研究所)