【No963】贈与における財産の取得時期について
令和6年1月1日以後の贈与から、暦年課税による贈与について生前贈与加算の加算対象期間が相続の開始前3年以内から7年以内に延長され、相続の開始前3年以内に取得した財産以外の財産については、当該財産の価額の合計額から100万円を控除した残額を相続税の課税価格に加算されることとなりました。
贈与の制度が大きく変わったことを踏まえ、今回は「贈与における財産の取得時期」について解説を行います。
1.財産の取得時期の原則
贈与税の納税義務は、贈与による財産の取得の時に成立することとされています。(国税通則法第15条第2項第5号)
そして、贈与における財産の取得の時期については、書面によるものについてはその契約の効力の発生した時、書面によらないものについてはその履行の時と規定されています。(相続税法基本通達1の3・1の4共-8)
民法上、贈与契約は諾成契約とされており、贈与者と受贈者の合意のみによって効力が生じるとされているため、上記通達における贈与の時期についても、民法の考え方に沿ったものとなっています。
しかしながら、書面によらない贈与については、履行が終わっていない部分について当事者が撤回することができるため(民法第550条)、履行前の受贈者の地位は不安定な状態にあると考えられることから、贈与税の課税上は、書面によらない贈与については確実に贈与があったと認められるその履行時に財産を取得したものとして取り扱うこととされています。
2.財産の取得時期の特例
贈与は、夫婦間、親子間、兄弟間など親族間で行われることが多く、外部からその事実を把握することが難しいうえ、当事者間において必ずしも書面を作成するとは限らないことから、上記の原則により贈与による財産の取得時期を特定することが困難である場合もあります。
そこで、所有権等の移転の登記または登録の目的となる財産について、上記の原則的な取扱いにより贈与の時期を判定する場合において、その贈与の時期が明確でない時は、特に反証のない限りその登記または登録があった時に贈与があったものとして取扱うこととされています。(相続税法基本通達1の3・1の4共-11)
このような取扱いが認められるのは、所有権等の移転の登記または登録の目的となる財産については、一般的には贈与と同時に登記または登録をし、真実の権利者と登記または登録における名義人とは一致していると考えられることによるものです。
また、登記または登録が行われることによって、初めて課税当局は贈与の事実を知り得ることになる点も考慮されたものと考えられます。
3.参考となる裁判例(名古屋高裁平成10年12月25日判決)
昭和60年3月14日、父から子に不動産を贈与する契約を公正証書で作成し、平成5年12月13日に当該不動産について昭和60年3月14日贈与を原因とする所有権移転登記を行いました。これに対して、所轄税務署長が平成7年7月5日付で贈与税の決定処分を行ったところ納税者との間で争いとなりました。
争点は、父が子に不動産を贈与したのは公正証書に記載どおり昭和60年3月14日なのか、それとも登記手続を行った平成5年12月13日頃なのかという点でした。仮に前者であれば、所轄税務署長の決定処分は贈与税の除斥期間を経過していることになり違法となります。
裁判所は、以下の理由から、本件不動産の取得時期は登記手続を行った平成5年12月13日であると認定しました。
・本件公正証書は、贈与税の負担がかからないようにするためにのみ作成されたものであって、父に本件不動産を贈与する意
思はなかったものと認められ、子も公正証書作成時に本件不動産の贈与を受けたという認識は有していなかったと認められる。
よって、本件公正証書によって、書面による贈与がなされたものとは認められない。
・親子間で贈与が行われたにもかかわらず、登記をすることができなかったことをうかがわせる事情も認められない。
・子は従前から本件不動産に居住しており、登記手続よりも前に本件不動産の引渡しを受けた事情も認められない。
(文責:税理士法人FP総合研究所)