【No948】空き家特例について
相続または遺贈により取得した「被相続人居住用家屋」及び「被相続人居住用家屋の敷地等」を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売却して、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます(空き家特例)。
空き家特例に関する令和6年以降の売却に係る主な改正事項として、次の2点をご紹介します。
1.1人当たりの控除額
特例の対象となる「被相続人居住用家屋」及び「被相続人居住用家屋の敷地等」を複数の相続人が共有で相続する場合、これまでは1人当たり最高3,000万円の控除が受けられました。
令和6年以降の売却については、租税特別措置の整理合理化の観点から、対象物件を取得した相続人の数が3人以上の場合は、1人当たりの控除額は2,000万円が限度となります。
2.建物取り壊し等のタイミング
空き家特例の適用に当たっては、売却時までに建物を取り壊すか耐震改修工事を行うことが必要で、相続人が高齢者である場合や「被相続人居住用家屋」の所在地から遠隔地に居住している場合等においては、売却時までにその要件を満たす工事を行うことが負担となり、結果として「被相続人居住用家屋」が空き家のまま放置されるケースが懸念されていました。
令和6年以降の売却については、売却日の翌年2月15日までに耐震改修工事や建物取り壊しをすれば良いこととなり、空き家特例を適用する要件が緩和されました。
3.信託と空き家特例
次に、令和4年12月20日に公表された東京国税局の文書回答事例をご紹介します。
事例では、自宅の土地・家屋(以下、「本物件」)について、母を委託者兼受益者とする信託契約を締結していたところ、母の相続開始に伴い信託契約が終了し(本件信託契約は受益者の死亡を信託終了事由としていました。)、本物件は帰属権利者である子どもに帰属することになりました。
論点は、母の相続開始日が属する年の翌年に子どもが本物件を譲渡しましたが、この場合に空き家特例が適用できるのか否かです。(空き家特例のその他の要件は満たしている前提です。)
回答内容としては、以下の理由から空き家特例の適用は認められないとの見解が示されています。
➀ 信託契約などにより信託の受益権を取得する行為や、信託が終了し残余財産が権利者に移転した場合などについては、法律上の「贈与」又は「遺贈」には該当しないものの、実質的には贈与又は遺贈と同様の効果をもたらすことから、相続税法においては、これらの取得又は移転などについて贈与又は遺贈による取得とみなして相続税又は贈与税の課税対象とする措置が講じられている。(相続税法第9条の2)
② 空き家特例は、例えば措置法第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》に規定する特例のように、相続税法の規定により遺贈等による財産の取得とみなされる場合を対象に含む旨は規定していない。
③ 空き家特例は、相続人が、相続により、その意思の如何にかかわらず、「被相続人居住用家屋等」の適正管理の責任を負うこととなることを踏まえた趣旨の下、適用対象者を相続人に限定し、かつ、「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋等の取得」をした場合に限り適用すると規定したものであると考えられ、信託行為の当事者ではない帰属権利者は、その権利を放棄することができること(信託法183③)を踏まえると、帰属権利者による残余財産の取得を相続人による相続又は遺贈による財産の取得と同様に取り扱うことは相当ではない。
では、受益者である母の死亡を信託終了事由とはせずに、信託受益権のまま子どもが相続した場合は空き家特例の適用は可能なのでしょうか。
これについては、子どもが取得したのは信託受益権であり、「被相続人居住用家屋」及び「被相続人居住用家屋の敷地等」ではないことから、空き家特例の適用は認められないものと考えられます。
家族信託により自宅を信託財産とする場合、空き家特例の適用が認められなくなる点は注意しておきたいところです。
(文責:税理士法人FP総合研究所)