【No943】戸籍証明書の広域交付制度が3月1日から開始します

 相続手続の最初のハードルは戸籍謄本の収集です。戸籍謄本(被相続人については、出生から亡くなるまでの連続した戸籍謄本)を漏れなく取得し、誰が相続人であるかを確認する必要があります。本籍地に複数回の異動があった場合には、被相続人の最後の本籍地の戸籍謄本を取得し、そこから従前戸籍を順次さかのぼって出生までのすべての戸籍謄本を揃えるため、相当な時間と労力の負担が生じます。この戸籍謄本の収集に関して、令和6年3月1日から「戸籍証明書の広域交付制度」が開始し、最寄りの市区町村の窓口に請求者本人が出向いて、複数の本籍地の戸籍謄本をまとめて請求できるようになります。

 但し、「コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍謄本」、「代理人による請求」、「郵送による請求」は制度の対象外であるため注意が必要です。

(注)広域交付住民票(住民基本台帳法第12条の4)と、戸籍証明書の広域交付制度は名称が似ていますが異なる制度です。

 (広域交付住民票の制度では、住民票の除票(死亡・転出で除かれた住民票)の発行はできません。)

1.従前からの戸籍謄本の請求制度

※ 従前からある戸籍謄本の請求制度については、郵送による請求、代理人による請求、が認められています。

(1)本人等請求(戸籍法第10条1項)

請求者本人、配偶者、直系尊属、直系卑属が対象。兄弟姉妹などは対象外

(2)第三者請求(戸籍法第10条の2第1項第1号、第3号)

正当な理由がある場合に限り請求が可能です。

例えば、相続人となった者が、相続人同士にあたる兄弟姉妹やおじおばの戸籍謄本を取得する場合など

(3)職務上請求(戸籍法10条の2第3項)

特定事務受任者(弁護士、司法書士、税理士など8士業)に認められた第三者請求。

受任した事件又は事務に関する業務遂行に必要がある場合に限り、職権で必要な戸籍謄本等の請求が可能です。

2.戸籍証明書の「広域交付制度」の開始によりできるようになること

令和6年3月1日から、戸籍法の一部を改正する法律(令和元年法律第17号)が施行され、次の請求方法が可能になります。

(1)最寄りの市区町村の窓口に出向いて(郵送は不可)請求

本籍地が遠くにある場合でも、最寄り(注)の市区町村の窓口に本人が出向いて戸籍謄本を請求できるようになります。

(注)住所地等にかかわらず全国のどの市区町村(例、自宅・職場・出張先・旅先の近くの市区町村)の窓口でも可能です。

戸籍証明書の広域交付制度を利用する場合は窓口対応のみです。郵送による請求はできません。

(参考)令和6年2月まで、又は「戸籍証明書の広域交付制度」を利用しない場合

従前からある戸籍謄本の請求(上記1)では、戸籍謄本の発行は本籍地の市区町村でなければ発行できません。そのため、本籍地が遠くにある場合には、その市区町村の窓口まで出向くか、郵送でのやりとり(戸籍謄本等の請求書、返信用封筒、本人確認書類、定額小為替などを同封)によるか、のいずれかによる必要があります。

(2)本籍地が複数ある場合でも、1か所の市区町村(最寄り)の窓口でまとめて請求

本籍地(又は過去の本籍地)が複数ある場合でも、最寄りの市区町村の窓口でまとめて請求できるようになります。

(参考)令和6年2月まで(広域交付制度の開始前、従前からの戸籍謄本の請求制度のみ)

複数ある本籍地(又は過去の本籍地)の市区町村に対して、別々に請求する必要がありました。

3.戸籍証明書の「広域交付制度」で請求できる戸籍謄本、請求できない戸籍謄本

(1)請求できる戸籍謄本

「本人」、「配偶者」、「直系尊属(例、父母、祖父母など)」、「直系卑属(子、孫など)」の戸籍謄本

(2)請求できない戸籍謄本など

①「兄弟姉妹」、「おじおば(伯(叔)父、伯(叔)母)」、「甥、姪」などの戸籍謄本

例えば、相続人同士にあたる兄弟姉妹の戸籍謄本は戸籍証明書の「広域交付制度」では請求できません。

⇒ このような場合は、従前どおり(兄弟姉妹の)本籍地所在地の市区町村へ請求(第三者請求)する必要があります。

② コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍

コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍謄本は市区町村間のネットワークで共有できず、請求できません。

⇒ 従前どおり本籍地所在地の市区町村へ請求する必要があります。

③ 戸籍抄本(一部事項証明書、個人事項証明書)

戸籍抄本とは、戸籍に記載されている人のうち一人又は複数人の情報が記載されたものを言います。

④ 戸籍の附票(住所の履歴が記載されているもの)

戸籍の附票は住民基本台帳法第16条に基づいて作成されており、戸籍法の改正(広域交付制度)とは関係ありません。

4.戸籍証明書の「広域交付制度」を利用するには

(1)本人限定(代理人は不可)、窓口限定(郵送は不可)

請求者本人が、市区町村の戸籍担当窓口に出向いて請求する必要があります。

※ 郵送や代理人(委任状により親族に依頼など)による請求、8士業による職務上請求はできません。

(2)本人確認書類の提示

 本人の顔写真付きの身分証明(運転免許証、マイナンバーカードなど)を提示する必要があります。

5.令和6年3月以降の戸籍謄本等の収集について

 戸籍証明書の広域交付制度の開始により、相続人本人による戸籍謄本の収集は大幅に負担軽減されることになりそうです。

但し、この制度の利用によりすべての戸籍謄本等が取得できるわけではありません。また、取得した戸籍謄本等により被相続人と相続人の親族関係が精査し証明できるようにする必要があります。

今後は、相続人本人による戸籍謄本の収集とあわせて、税理士、司法書士等への依頼も検討されると良いでしょう。

≪ 戸籍謄本の収集の例 ≫

(1)相続人本人が最寄りの市区町村の窓口に出向き、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得

~ 戸籍証明書の広域交付制度を活用

(2)心身の負担等により市区町村窓口への訪問が難しい場合は、専門家への依頼も検討

~ 依頼された税理士・司法書士等は、従前からの戸籍謄本の請求制度(上記1(3)職務上請求)を利用

(3)上記(1)で取得できないもの

~ コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍謄本、戸籍の附表、住民票の除票などについては

① 該当する本籍地の市区町村へ戸籍謄本などを請求(市区町村窓口へ出向く、郵送でのやりとり)

② 専門家に職務上請求による戸籍謄本などの収集を依頼

(4)相続人確定のための精査、不足書類の取得、相続税申告や相続手続などの税理士、司法書士等への依頼を検討

(文責:税理士法人FP総合研究所)