【No928】相続登記の義務化について
近年、所有者登記が変更されず放置されている「所有者不明土地」が特に地方を中心に増加し、その土地の利用が阻害されるなどの社会問題が生じています。そこで、令和6年4月1日には「相続登記の申請義務化」及び「相続人申告登記の申請義務化」がされることとなっています。また、「住所等の変更登記の申請義務化」についても令和8年4月1日から施行されることとなりました。今回はこれらの制度についてご紹介します。
1.相続登記の申請義務化(施行日:令和6年4月1日)
相続が発生してもそれに伴って相続登記がされない原因として、これまで相続登記の申請は任意とされており、かつ、その申請をしなくとも相続人が不利益を被ることが少なかったこと、相続した土地の価値が乏しく売却も困難であるような場合には、費用や手間を掛けてまで登記の申請を行う意欲が湧きにくいことが指摘されています。そのため、相続登記の申請を義務化することで所有者不明土地の発生を予防しようとしています。
(1)基本的なルール
相続又は遺贈により不動産を取得した相続人又は受遺者は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請を行わなければならないこととされました。
(2)遺産分割協議が成立した場合の追加的なルール
遺産分割協議が成立した場合には、不動産を取得した相続人は遺産分割協議が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請しなければならないこととされました。
(3)施行日前に開始した相続についての取り扱い
相続登記の義務化については、施行日前に相続の開始があった場合についても適用されることとなり、下記のいずれか遅い日から3年以内に相続登記の申請を行わなければなりません。
①施行日(令和6年4月1日)
②自己のために相続開始があったことを知り、かつ、不動産の所有権を取得したことを知った日
(4)登記の申請が行われない場合のペナルティ
正当な理由(※)が無いにも関わらず登記の申請を行わなかった場合には、10万円以下の過料の適用対象となります。
(※)正当な理由の例示
①相続登記を放置したために相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケース
②遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているケース
③申請義務を負う相続人又は受遺者自身に重病等の事情があるケース
2.相続人申告登記の申請義務化(施行日:令和6年4月1日)
上記1のとおり、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行わなければなりませんが、遺産分割協議が成立していないなどの事情により、相続登記を行うことが難しいケースがあります。
そこで、登記簿上の所有者について相続が開始したことと、自らがその相続人であることを登記官に申し出ることで、相続登記の申請義務(上記1(1))を履行することができます。
相続人申告登記の申請があると、登記官はその不動産の登記に申出人の氏名や住所などの情報を付記します。ただし、この時点では正式な相続登記ではなく、その後、遺産分割協議が成立し不動産を相続する相続人が確定した時から3年以内に正式な相続登記(名義変更)を行うことで、相続登記の申請義務(上記1(2))を履行したことになります。
3.住所等の変更登記の義務化(施行予定日:令和8年4月までに)
登記簿上の所有者の氏名や住所が変更されてもその登記がされない原因として、これまで住所等の変更登記の申請は任意とされており、かつ、その申請をしなくても所有者自身が不利益を被ることが少なかったこと、転居等の度にその所有不動産について住所等の変更登記をするのは負担であることが指摘されています。そこで、住所等の変更登記の申請を義務化することで、所有者不明土地の発生を予防しようとしています。
登記簿上の所有者については、その住所等を変更した日から2年以内に住所等の変更登記の申請をしなければならないこととされました。正当な理由がないにも関わらず登記の申請を行わなかった場合には、5万円以下の過料の適用対象となります。
(文責:税理士法人FP総合研究所)