【No927】遺産分割に関する民法の改正について
令和3年 4 月の民法改正で遺産分割の規定が見直され、相続開始時から 10 年経過後の遺産分割については、原則として相続人の特別受益や寄与分を考慮せず、法定相続分または指定相続分によることになります。
この改正は令和 5 年 4 月 1 日から施行されていますが、施行日前に発生した相続も対象となります。
今回は、遺産分割に関する改正について解説します。
1.改正前の問題点
相続が発生して相続人が複数いる場合、相続財産である土地や建物、動産、預金などの財産は原則として相続人の共有となります。(遺産共有)
遺産が共有の状態のままにあると、各相続人の持分権が互いに制約し合う関係に立ち、遺産の管理に支障を来す事態が生じることもあります。また、遺産分割がされないまま相続が繰り返されて多数の相続人による遺産共有関係となると、遺産の管理・処分が困難となります。このような状態で相続人の一部が所在不明になり、所有者不明土地が生ずることも少なくありません。
改正前においては、特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分の割合による遺産分割を求めることについては時的制限がなく、長期間放置していても具体的相続分の割合による遺産分割を希望する相続人に不利益が生じないことから、相続人が早期に遺産分割の請求をすることについてインセンティブが働きにくい状況にあります。また、相続開始後遺産分割が行われないまま長期間が経過すると、生前贈与や寄与分に関する書証等が散逸したり、関係者の記憶も薄れることで、具体的相続分の算定が困難となり遺産分割の支障となる恐れがあります。
2.改正の内容
相続開始時から 10 年を経過した後にする遺産分割は、原則として具体的相続分ではなく、法定相続分または指定相続分によることとされました。
なお、次の場合は引き続き具体的相続分による遺産分割が可能です。
(1)10 年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき。
(2)10 年の期間満了前 6 か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由(※)が相続人にあった場合において、当該事由消滅時から 6 か月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき。
※被相続人が遭難して死亡していたが、その事実が確認できず、遺産分割請求をすることができなかったなど。
この改正により、具体的相続分による遺産分割を求める相続人に対して、早期の遺産分割請求を促す効果が期待できるとともに、具体的相続分による遺産分割の利益を消滅させ、画一的な割合である法定相続分を基準として円滑に遺産分割を行うことが可能となります。
3.10年経過後の法律関係
10 年が経過すると分割基準は法定相続分または指定相続分となりますが、分割方法は基本的に遺産分割であって共有物の分割ではありません。
なお、10 年が経過し、法定相続分等による分割を求めることができるにもかかわらず、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意したケースでは、具体的相続分による遺産分割が可能です。
4.改正法の施行日前に相続が開始した場合の遺産分割の取扱い
改正法の施行日(令和 5 年 4 月 1 日)前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても、新法のルールが適用されることになります。
ただし、経過措置により少なくとも施行時から 5 年間の猶予期間が設けられています。
<相続開始時から 10 年を経過していても、具体的相続分により分割する場合>
(1)相続開始時から 10 年経過時または改正法施行時から 5 年経過時のいずれか遅い時までに、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき。
(2)相続開始時から 10 年の期間(相続開始時から 10 年の期間の満了後に改正法施行時から 5 年の期間が満了する場合には、改正法施行時から 5 年の期間)満了前
6 か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、当該事由消滅時から 6 か月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき。
5.遺産共有と通常共有が併存している場合
現行制度では、遺産共有と通常共有が併存する共有関係を裁判で解消するには、通常共有持分と遺産共有持分との間の解消は共有物分割手続で、遺産共有持分間の解消は遺産分割手続で別個に実施する必要がありました。
改正法では、遺産共有と通常共有が併存する場合において、相続開始時から 10 年を経過したときは、遺産共有関係の解消も共有物分割訴訟において実施することが可能となります。
6.不明相続人の不動産の持分取得・譲渡
改正民法では、共有者(相続人を含む)は相続開始時から 10 年を経過したときに限り、持分取得・譲渡制度により所在等不明相続人との共有関係を解消することが可能となります。
(1)共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明相続人(氏名等不特定を含む)の不動産の持分を、その価額に相当する額の金銭の供託をしたうえで「取得」することができます。
(2)共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明相続人以外の共有者全員により、所在等不明相続人の不動産の持分を含む不動産の全体を、所在等不明相続人の持分の価額に相当する額の金銭の供託をしたうえで「譲渡」することができます。
※共有者が取得する所在等不明相続人の不動産の持分の割合、所在等不明相続人に対して支払うべき対価(供託金の額)は、具体的相続分ではなく、法定相続分または指定相続分が基準となります。
(文責:税理士法人FP総合研究所)