【No900】収用等の場合の譲渡所得の特別控除適用における6か月以内の譲渡の考え方

 土地収用法やその他の法律で収用権が認められている公共事業のために土地建物を譲渡した場合には、収用等の課税の特例を受けることができます。この課税の特例には、「対価補償金等で他の土地建物に買換えたときは譲渡がなかったものとする特例」と「譲渡所得から最高5,000万円までの特別控除を差し引く特例」の二つがあります。今回は、「譲渡所得から最高5,000万円までの特別控除を差し引く特例(措法33条の4)」の適用要件のうち、最初に買取り等の申出があった日から6か月を経過した日までに土地建物の譲渡をしているという要件の考え方について確認します。

1. 収用等の場合の譲渡所得の特別控除(最高5,000万円)の適用要件 ※次の要件全てに当てはまる必要があります。

(1)譲渡した土地建物は固定資産であること。

(2)その年に公共事業のために譲渡した資産の全部について収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例の適用を受けていないこと。

(3)最初に買取り等の申出があった日から6か月を経過した日までに土地建物を譲渡していること。

(4)公共事業の施行者から最初に買取り等の申し出を受けた者(その者の死亡に伴い相続又は遺贈により当該資産を取得した者を含みます。)が譲渡していること。

(注)一の収用に係る事業につき、資産の譲渡が2以上の年にわたって行われた場合には、最初の年に譲渡をした資産に限り適用されます。

2. 具体例

 収用が実施され、譲渡所得の申告は、原則どおり不動産を引き渡した日(令和5年)とする場合に、その不動産の引渡しが買取り等の申出の日から6か月を経過した後となるときに、収用等の場合の譲渡所得の特別控除(最高5,000万円)の適用の可否

(1)買取り等の申出年月日:令和4年6月22日  (2)買取り等の年月日  :令和4年12月17日

(3)不動産の引渡日   :令和5年3月9日   (4)補償金の受取日   :令和5年3月9日

誤った取扱い】

 収用事業に関して令和4年6月22日に不動産の買取り等の申出を受け、その申出の日から6か月以内に売買契約は締結していますが、不動産の引渡は翌年となり、不動産を引き渡した年分で譲渡所得の申告を行うため、買取りの申出の日から6か月以内の譲渡には該当しないことから、収用等の場合の譲渡所得の特別控除(最高5,000万円)は適用することができません。

【○正しい取扱い】

 原則どおり、不動産の引渡しをした日を、譲渡をした日とする場合であっても、その買取りの申出の日から6か月以内に売買契約を締結しているときは、収用等の場合の譲渡所得の特別控除(最高5,000万円)を適用することができます。

【理由】

 「収用等の場合の譲渡所得の特別控除(最高5,000万円控除)」の特例は、公共事業の円滑な施行を促進する観点から、原則として、最初に買取り等の申出のあった日から6か月を経過した日までにその申出に係る資産を譲渡した場合に限って適用されます。(措法33の4③一)

 この規定の趣旨は、公共事業用地の早期取得を税制面により助成する措置で、買取り等の申出に応じて早期に資産を譲渡した者を課税上優遇することにより、公共事業用地の早期における円滑な取得を促進することで、いわゆる売り惜しみなどによる補償金の釣り上げなどのゴネ得を排除するもので、被収用者(納税者)サイドの事情のみを考慮したものではなく、収用者(公共事業施工者)サイドにも立った特例規定になります。

 この趣旨から特例の適用を検討すると、資産に係る「買取り等の申出のあった日」から6か月を経過した日までに売買契約を締結している場合には、不動産の引渡し時期が「買取り等の申出のあった日」から6か月を経過した後であったとしても、既に「公共事業用地の早期における円滑な取得」は実現していることから、譲渡所得の申告を、契約日基準とするか又は引渡日基準とするかの税務上の課税年分の取扱い(所基通36-12)によって、特例適用の有無を判断するのは相当ではないと考えられます。

 したがって、「買取り等の申出のあった日」から6か月を経過した後に資産を引渡し、その日の属する年分で申告したとしても、「収用等の場合の譲渡所得等の特別控除(最高5,000万円)」の特例の適用が認められます。

(文責:税理士法人FP総合研究所)