【No869】副業収入等に係る所得区分の判定基準の改正案
国税庁は、令和4年8月1日、行政手続法に基づき『「所得税基本通達の制度について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)』に対する意見募集をし、令和4年8月31日に締め切られました。今後提出された意見を考慮した結果が公表されることになります。この改正案では、副業収入に係る所得区分が「事業所得」と「雑所得」のいずれに該当するかの判定基準が示され、改正の適用時期は令和4年分以後の所得税から適用されます。
今回は、この改正案に示された判定基準をご紹介するとともに、これによる所得税への影響を検討したいと思います。
1. 改正案の内容
副業収入に係る所得区分が、「事業所得」と「業務に係る雑所得」のいずれに該当するかは、原則として、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定し、社会通念上事業と称するに至ったとしても、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、「業務に係る雑所得」に該当することになります。
2. 事業所得と雑所得の相違点
上記1により、これまで「事業所得」として申告をしていた方が、改正により「業務に係る雑所得」として申告する必要がでてくることが考えられます。「事業所得」と「雑所得」の主な相違点は次のとおりです。
(注)純損失の繰越控除も、事業所得では繰越控除ができ、雑所得では繰越控除ができないという相違点にあたりますが、副業の損失が本業の給与所得よりも多くなることは考えにくいため省略します。
(1)損益通算
損益通算とは、各種所得金額の計算上生じた損失のうち一定のもの(不動産所得、事業所得、譲渡所得及び山林所得)についてのみ、一定の順序にしたがって、他の各種所得の金額から控除することができます。
(2)青色申告の特別控除
青色申告の特別控除とは、青色申告者は、所得金額から55万円(一定の要件を満たす場合は65万円)又は10万円を控除することができます。
(3)少額の減価償却資産
青色申告者で、かつ、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の用に供した減価償却資産を取得し、その取得価額が30万円未満である少額減価償却資産については、その取得価額に相当する金額を、その事業の用に供した年分のそれぞれの所得の金額の計算上、必要経費(年間300万円限度)に算入することができます。
3. 改正案による影響
改正案による場合、副業の収入金額が300万円以下の場合には、特に反証のない限り、副業に係る所得区分は、「業務に係る雑所得」に該当することになります。(「反証がある」というのは新型コロナ等による収入減少等の異常な状況が想定されます。)それでは副業の収入金額が300万円を超えれば「事業所得」に該当するかというとそうではなく、『その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで、判定する必要があるためご注意ください。
「事業所得」から「業務に係る雑所得」に変更した場合の影響
(1)副業で損失(収入<経費)が生じていて、事業所得として申告をしていた場合
確定申告をすることにより、この事業所得の損失を、本業の給与所得と損益通算して、給与所得から天引きされていた源泉所得税を取戻すという処理をされていた方は、改正案による場合には、本業の給与所得と損益通算して、源泉所得税の取戻しをすることはできなくなります。(「副業に係る雑所得」で生じた損失を、他の雑所得(例えば公的年金等)と損益通算することはできます。
(2)副業で所得(収入>経費)が生じていて、事業所得として申告をしていた場合
事業所得では、毎年青色申告の特別控除(55万円(一定の要件を満たす場合は65万円)又は10万円)を適用することができますが、改正案による場合には、青色申告の特別控除は適用できなくなります。
また、副業で30万円未満(附随費用を含む。)のパソコンを取得した場合、「事業所得」では、そのパソコンを事業の用に供した日を含む年分の必要経費として一括で経費計上できますが、改正案による場合には、4年間に分けて経費計上する必要があるため経費計上に時間がかかることになります。
(文責:税理士法人FP総合研究所)