【No850】民法等の一部改正による遺産分割の見直しについて
相続が開始し、複数の相続人がいる場合には、被相続人の遺産(相続財産)に属する不動産や預金などの財産は、原則として相続人による共有状態となり、遺産が共有関係にあると各相続人の持分権が互いに制約しあうため、遺産の管理に弊害が生じる可能性があります。特に土地については、遺産分割がされないまま相続が繰り返されることにより、多数の相続人が共有関係になると、遺産の管理・処分が困難となります。このような状態の下では、相続人の一部が所在不明となり、所有者不明土地が生じることで土地の取引や有効活用の阻害要因となることも少なくありません。
遺産の共有関係は、遺産分割により速やかに解消されるべき暫定的なもので、遺産共有関係の解消は所有者不明土地の発生予防の観点からも重要と考えらますが、現行制度では、具体的相続分の割合による遺産分割を求めることについては、時間制限がなく、長期間放置をしていても具体的相続分の割合による遺産分割を望む相続人に不利益が生じないため、相続人が早期に遺産分割の請求をすることについてインセンティブが働きにくい状況となっています。また、遺産分割がされないまま長期間が経過すると、具体的相続分の算定が困難となり、遺産分割の支障となる恐れがあります。
そこで、「民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)」(令和3年4月28日公布、令和5年4月1日施行)により、遺産分割に関する見直しがされ、相続開始10年を経過した後にする遺産分割は、特別受益や寄与分を主張することができなくなります。
1.改正法の内容(新民法904条の3、令和5年4月1日施行)
【原則】
相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)による。
【例外】(引き続き具体的相続分により分割が可能である場合)
①10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき
②10年の期間満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由(※)が相続人にあった場合において、当該事由消滅時から6か月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき
(※)被相続人が遭難して死亡していたが、その事実が確認できず、遺産分割請求をすることができなかったなど。
【10年経過後の法律関係】
10年経過により、分割基準は法定相続分等となりますが、分割方法は共有分割ではなく、基本的に遺産分割となります。また、10年が経過し、法定相続分等による分割を求めることができるにもかかわらず、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意したケースでは、具体的相続分による遺産分割も可能となります。
この改正により、具体的相続分による分割を求める相続人に対しては、早期の遺産分割請求を促す効果が期待され、また、長期間遺産分割がされない場合には、具体的相続分による分割の利益を消滅させ、画一的な割合である法定相続分を基準として円滑に分割を行うことが可能となります。
2.改正法の施行日前に相続が開始した場合の遺産分割の取扱い(経過措置)
改正法の施行日である令和5年4月1日より前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても、改正法のルールが適用されます。ただし、経過措置により、少なくとも施行時から5年の猶予期間が設けられています。
3.まとめ
今回説明した改正法では、結論としては「相続開始の時から10年を経過するまでに遺産分割しなければならない」という制限が設けられたわけではなく、「特別受益(一部相続人が被相続人から生前に財産を譲られていた場合)と寄与分(相続財産の増加に一部の相続人が特別の寄与をした場合)の主張に、相続開始の時から10年の期限を設ける」というものとなります。
遺産分割協議における特別受益と寄与分の主張に期限が設けられたことにより、当該主張ができる権利者にとっては不利益を被ることになりかねません。権利の主張を考える場合には、早めに家庭裁判所の調停を仰ぐといった対応を検討する必要があるかもしれませんので、ご注意ください。
(文責:税理士法人FP総合研究所)