【No837】暗号資産(仮装通貨)の所得税等の取扱いについて
先日、全国紙の新聞記事に『暗号資産(仮想通貨)の取引で、所得の申告漏れや無申告が相次いでいる。・・・・』とありました。そもそも申告が必要であるという認識が不足している点も問題ではありますが、その申告方法についても周知されていないように思います。そこで、今回はこの暗号資産の税務的な取扱いについてポイントを絞りながら、所得税だけではなくその周辺の税金についても解説します。なお、今回は暗号資産の生成であるマイニングに係る税務は割愛させていただきます。
1.所得税について
(1)暗号資産の所得区分:原則『雑所得』
暗号資産の取引自体が事業と認められる場合(この取引収入によって生計を維持している場合)や、暗号資産取引が事業所得等の基因となる行為に付随したものである場合(事業用資産として暗号資産を保有し、棚卸資産等の購入の際の決済手段として使用している場合)などは事業所得となります。
雑所得内の損益は、雑所得内の損益(為替差損益)としか通算できません。他の所得の金額と損益通算はできません。
外国為替証拠金取引(FX)は、雑所得の区分とはなり得ますが『先物取引に係る雑所得等』として申告分離課税の適用があるため暗号資産取引との損益通算はできません。
(2)暗号資産の所得の計算方法:収入金額-取得原価-必要経費=雑所得の金額
取得原価の計算方法は、総平均法又は移動平均法のうちいずれか選択した方法(選択しない場合には、個人においては総平均法)により計算した金額となります。
なお、暗号資産の取得原価の計算については、不動産や有価証券に適用される譲渡対価の5%を取得費とすることができることと同様に、収入金額の5%を原価とすることが可能です。
必要経費には、暗号資産の売却のために必要な費用、売却手数料や回線利用料やパソコン等の購入費用(暗号資産の売却に必要と認められる部分に限ります)が含まれます。
(3)暗号資産により商品等を購入した場合
保有している暗号資産で商品等を購入した場合には、その暗号資産を売却したことになりますので、その売却に係る所得金額を計算しなければなりません。
(4)暗号資産同士の交換を行った場合
保有している暗号資産Aを他の暗号資産Bと交換した場合には、暗号資産Aで暗号資産Bを購入したことになります。したがって、(3)と同様に暗号資産Aの売却に係る所得金額を計算する必要があります。
(5)暗号資産の分裂(分岐)により暗号資産を取得した場合
暗号資産の分裂(分岐)により新たに誕生した暗号資産を取得した場合、その時点では課税対象となる所得は生じません。
ただし、分裂により取得した暗号資産の取得価額は0円として、後々の取得原価を計算することとなります。
2.相続や贈与について
暗号資産を相続や贈与により取得した場合の課税関係については、被相続人又は贈与者から暗号資産を相続若しくは遺贈又は贈与により取得したものとして、相続税又は贈与税が課税されます。と、これで終了すればよいのですが、その被相続人等において次のような規定があります。
個人(上記にある被相続人等)が、贈与(相続人に対する死因贈与を除く。)又は遺贈(包括遺贈及び相続人に対する特定遺贈を除く。)により暗号資産を移転させた場合には、所得税の計算上、その贈与又は遺贈の時における暗号資産の価額(時価)を総収入金額に算入する必要があります。※平成31年4月1日以降から適用。
つまり、被相続人等において所得税の計算も必要となります。
ちなみに、相続人が暗号資産を、被相続人から相続人に対する死因贈与、相続、包括遺贈又は相続人に対する特定遺贈により取得した場合には、その被相続人が暗号資産について選択していた方法により評価した金額(被相続人等が死亡時に保有する暗号資産の評価額)を、その相続人が引き継ぐこととなりますので、その時点での所得税計算は不要です。
3.その他
(1)暗号資産を譲渡した場合の消費税
国内の暗号資産交換業者を通じた暗号資産の譲渡には、消費税は課されません
(2)財産債務調書への記載の要否
暗号資産は財産債務調書への記載対象になります。
(3)国外財産調書への記載の要否
暗号資産が、国内財産か国外財産かのいずれであるかは、その財産を有する者の住所(住所を有しない方にあっては、居所)の所在により「国外にある」かどうかを判定します。
したがって、居住者が国外の暗号資産取引所に保有する暗号資産は、「国外にある財産」とはなりませんので、国外財産調書への記載の対象にはなりません。
参考資料:国税庁発表情報=暗号資産に関する税務上の取扱いについて
(文責:税理士法人FP総合研究所)