【No836】離婚時における財産分与に係る税金について

 確定申告時期だけに限らず、ご相談を受けることが多い内容が表題の「離婚時における財産分与に係る税金について」となります。今回はこちらについて解説したいと思います。

 次に掲げる各事項についての税金はどのように取り扱われるか、根拠を示しながら確認したいと思います。

【事例】

 婚姻期間が20年以上ある夫婦(甲と乙)が離婚することとなり、甲と乙が次のような協議をしていたとします。

①甲は乙に対して、慰謝料を支払うこととする。

②甲は乙に対して、子の養育費を支払うこととする。

③甲は乙に対して、財産分与として〇〇円の金銭を支払うこととする。

④甲は乙に対して、財産分与として甲名義の自宅を乙に譲り渡すものとする。

1.慰謝料について

 所得税法第9条には、所得税の非課税項目が列挙されています。その中の1項第18号に『・・・・損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの』とあります。

 そこで、その他の政令で定めるものを深堀すると、所得税法施行令(これが政令です)の第30条『法第九条第一項第十八号(非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)は、次に掲げるものその他これらに類するもの(これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補塡するための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分)とする。』の第3項に『心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金』とあるので、慰謝料について所得税は課税されません。

 ただし、上記に『相当の見舞金』とあるように、社会通念上からみて相当な金額までに対して税金がかからないわけで、その夫婦の生活状況や一般的な相場からみて著しく高額な場合などは、その差額に対して贈与税が課される可能性があることも留意してください。

2.養育費について

 相続税法第21条の3に、贈与税の非課税とされる財産について列挙されています。その中の1項第2号に『扶養義務者相互間(夫婦、親子、兄弟姉妹など)において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの』とあります。

 したがって、離婚したとはいえ、親子は扶養義務者となりますので、養育費について贈与税は課税されません。

 なお、国税庁のWebに上記『生活費又は教育費で通常必要と認められるもの』の補足として次の用な説明があります。

 『ここでいう生活費は、その人にとって通常の日常生活に必要な費用をいい、治療費、養育費その他子育てに関する費用などを含みます。また、教育費とは、学費や教材費、文具費などをいいます。』

 以上のように、養育費についても慰謝料と同じように通常必要と認められるものになります。

【補足】それぞれのご家庭で、通常という定義は色々とありますので、世間一般の相場というものがあるかもしれませんが、夫婦の所得や資産の状況なども考えて決めることになると考えられます。

 更にここで、養育費について深堀をしたいと思います。

 離婚後乙が引き取った子について、甲の扶養親族として扶養控除の対象となるのか。という点について皆さんどうお考えになりますでしょうか?

 答えとしては、状況次第で扶養控除の対象となる。です。こちらも国税庁のWebに次のような質疑応答事例(一部抜粋・加工)があります。

Q:離婚後、元妻が引き取った子(16歳)の養育費を元夫が負担しているときは、その元夫と子は「生計を一にしている」と解して、元夫の扶養控除の対象として差し支えありませんか。

A:離婚に伴う養育費の支払が、①扶養義務の履行として、②「成人に達するまで」など一定の年齢に限って行われるものである場合には、その支払われている期間については、原則として「生計を一にしている」ものとして扶養控除の対象として差し支えありません。

 「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではなく、勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には、これらの親族は生計を一にするものとして取り扱っているところです。

 したがって、元夫と子が「生計を一にしている」とみることができるかどうかは、離婚に伴う養育費の支払が「常に生活費等の送金が行われている場合」に当たるか否かによることとなりますが、次のような場合には、扶養控除の対象として差し支えないものと考えられます。

①扶養義務の履行として支払われる場合

②子が成人に達するまでなど一定の年齢等に限って支払われる場合

 ただし、子が元夫の控除対象扶養親族に該当するとともに元妻の控除対象扶養親族にも該当することになる場合には、扶養控除は元夫又は元妻のうちいずれか一方についてのみしか認められません。

3.財産分与について

 相続税法9条には、贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合として、「・・・・対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては・・・・贈与により取得したものみなす。」とあり、贈与税の対象となる行為に含まれることとなりますが、その第9条を運用するための通達に次のような文言があります。

相続税法基本通達9-8 

 婚姻の取消し又は離婚による財産の分与によって取得した財産(民法第768条((財産分与))、第771条((協議上の離婚の規定の準用))及び第749条((離婚の規定の準用))参照)については、贈与により取得した財産とはならないのであるから留意する

 ただし、その分与に係る財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合における当該過当である部分又は離婚を手段として贈与税若しくは相続税のほ脱を図ると認められる場合における当該離婚により取得した財産の価額は、贈与によって取得した財産となるのであるから留意する。

 つまり、財産分与について贈与税は課税されないが、夫婦の所得や資産状況を考えて財産分与額が多すぎる場合や、贈与税や相続税を免れるために偽装離婚等であると認められる場合には、贈与税は課税されます。

4.不動産(有価証券による分与も同じです。以下、不動産等とします)による財産分与

 上記3により財産分与については、税金は課税されないとありましたが、1点注意すべき事項があります。それは分与財産を不動産等とする場合です。

 結論から申し上げますと、不動産等による財産分与は、その分与をした者(このコラムでは甲)に、所得税が課税されます。

 所得税基本通達33-1の4(所得税法第33条の譲渡所得に関する通達)

 民法第768条《財産分与》(同法第749条及び第771条において準用する場合を含む。)の規定による財産の分与として資産の移転があった場合には、その分与をした者は、その分与をした時においてその時の価額により当該資産を譲渡したこととなる。

 したがって、財産分与は不動産等ではなく金銭で行うことが余計な税金の心配をしなくてよいということです(または、分与する側であらかじめ資産を第三者に売却し、譲渡による所得税を清算し、その後に金銭で分与する。)。

 更にここで、不動産による財産分与の深堀をします。

 税金のことを考えて、金銭で分与するのがよいとは言いますが、一般的に家族の資産の中で財産価値があるものというと不動産(自宅)になると思います(上記【事例】④の部分です)。

 甲としては、慰謝料・養育費・さらには譲渡税と、弱り目に祟り目となるかというと、そこまで国も厳しくはありません。

 分与する不動産が甲の自宅(居住用不動産)であれば、譲渡益が3,000万円までは、居住用不動産の特別控除の特例を受けることができます。

 居住用不動産の3,000万円特別控除については、次の要件(一部を抜粋)があります。

①自身が住んでいる居住用家屋とその家屋と共に敷地を譲渡すること

②自身が住んでいる又は住まなくなってから3年を経過する日の年末までに譲渡すること

③配偶者や親族などへの譲渡ではないこと

 したがって、明らかに別居して4年を経過しているとか、離婚前に名義を変更するなどをしていなければこの規定の適用があります。

 また、自宅以外の不動産(賃貸物件、別荘、セカンドハウス等)を分与した場合には所得税が課税されるかどうかの計算をしなければなりません。

 なお、財産分与により取得した乙において、その資産の取得日及び取得価額は、その分与により取得した日にその時の価額(時価)により取得したこととなります。

 もし、離婚前にどうしても名義を変更したいのであれば、贈与税の居住用財産の配偶者控除(2,000万円まで課税価格から控除されます)の規定を適用を検討をしておかないと、本当に弱り目に祟り目となってしまうので注意が必要です。

(文責:税理士法人FP総合研究所)

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