【No832】上場株式等の配当所得等に係る課税方式の選択に関する見直しについて
現行制度では、特定配当等(※1)及び特定株式等譲渡所得(※2)について、所得税と個人住民税で異なる課税方式(申告不要制度・総合課税・申告分離課税)を選択できますが、令和4年度税制改正により令和6年度分以後については、個人住民税の課税方式を所得税と一致させることとされています。今回は課税方式の選択制度の概要とその見直しの内容についてご紹介します。
(※1)特定配当等とは、上場株式等の配当等のうち大口株主等が支払を受けるものを除く配当及び利子で、所得税及び復興特別所得税が15.315%、住民税が5%の税率で源泉徴収されているものをいいます。
(※2)特定株式等譲渡所得とは、特定口座のうち源泉徴収口座に受け入れた上場株式等の譲渡所得等で、所得税及び復興特別所得税が15.315%、住民税が5%の税率で源泉徴収されているものをいいます。
1.課税方式の選択制度について
(1)申告方法の選択
現在の証券税制において、次の①、②についてはそれぞれ申告方法を選択することができます。
① 上場株式や投資信託の売却(特定口座で源泉徴収有りを選択している場合に限る)⇒ 申告不要or申告分離課税
② 上場株式の配当金や投資信託の分配金 ⇒ 申告不要or申告分離課税or総合課税
(2)所得税
上記①、②については既に源泉徴収が行われているため所得税の申告は必要ありませんが、下記の場合には、あえて申告を行うことで、有利となる場合があります。
A.2か所以上の金融機関の損益を通算するために分離課税を選択して申告
B.過去の株式等の譲渡損失を繰り越していて、本年分の利益と通算するために分離課税を選択して申告
C.上場株式等の配当につき配当控除を受けるため総合課税を選択して申告
また、確定申告を行わなければならない一般口座についても異なる課税方式を選択することができます。
(3)住民税
住民税については、所得税の確定申告データが税務署から市区町村に送られ、それを基に計算することとなるため、原則として、所得税において選択した課税方式と同様の課税方式により住民税の計算を行います。
そのため、所得税で申告不要以外の方式を選択した場合には、配当所得等が追加で計上されることから、申告不要を選択した場合と比較すると、所得税の所得は増加し、これに応じて住民税の所得も増加することとなります。
住民税の所得は、住民税以外にも、a.国民健康保険料、b.後期高齢者医療保険料、c.介護保険料などの計算基礎として用いられるほか、d.医療機関での窓口負担割合が3割となる現役並み所得者に該当するかの判定基礎としても用いられるため、住民税の所得が増加することで、これらの負担も増加する可能性があります。
(4)課税方式の選択
課税方式の選択制度を利用し、所得税の確定申告とは別に、上場株式等の譲渡や配当等について申告不要を選択する旨を記載した住民税申告書を納税通知書の送達日までに地方自治体に提出することで、所得税計算においては上記(2)のメリットを享受しつつ、住民税計算においては所得増加を防ぎ、上記(3)のデメリットを回避することができます。
異なる課税方式を選択するためには別途住民税の申告書の提出が必要となりますが、①住民税の申告書の作成が必要であること、②地方自治体によって申告方法、申告様式が異なること、③個人住民税が電子申告に対応していないことなどから、住民税の申告による事務負担の増加といった問題が指摘されていました。
そこで、令和3年度の税制改正により、令和3年分以後の確定申告書を令和4年1月1日以後に提出する場合は、所得税の確定申告書の提出のみで申告手続きが完結できるように、確定申告書に個人住民税に係る附記事項が追加され、住民税の課税方式についてその全てを申告不要とする場合には確定申告書に附記するだけで、所得税と異なる課税方式を選択できることとなりました。(No.827の資産税FPNewsに記載方法をご紹介しています。)
全てを申告不要とはせず、所得税と住民税とで一部分だけを異なる課税方式を選択する場合には、従来どおり所得税と住民税の両方の申告が必要となります。
2.令和4年度の改正点
令和4年度税制改正により、金融所得課税は所得税と個人住民税が一体として設計されてきたことなどを踏まえ、公平性の観点から、令和6年度の住民税からは、所得税と個人住民税の課税方式を一致させることとなり、所得税と住民税とで異なる課税方式を選択することができなくなります。
令和6年度分以後の個人住民税については、上記a.~d.の国民健康保険料等の影響も考慮したうえで、所得税及び住民税をあわせて申告方法を選択する必要があります。
なお、令和6年度分の住民税は、令和5年分の所得を基に計算されますので、令和5年分の所得税の確定申告の際、上記1.(1)の申告方法の選択について、慎重に判断する必要があります。
(文責:税理士法人FP総合研究所)