【No817】令和4年度税制改正大綱(資産税編) 速報版

1.相続税・贈与税のあり方(来年度以降に見送り)

 令和元年度から検討課題に挙がっている相続税と贈与税の一体課税については、令和4年度においても改正は見送られることとなりました。

 わが国では、相続税と贈与税が別個の税体系として存在しており、贈与税は相続税の累進回避を防止する観点から高い税率が設定されていますが、相当に高額な相続財産を有する層にとっては、財産の分割贈与を通じて相続税の累進負担を回避しながら多額の財産を移転することが可能となっています。今後、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進めることとされています。

 あわせて、経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は、そのあり方について、不断の見直しを行っていく必要があるとされていることから、令和5年3月31日までとされている「直系尊属からの教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税措置」や「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税措置」は当該期限をもって終了となる見込みです。

2.住宅ローン控除の見直し

 住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除について適用期限(令和3年12月31日)を令和7年12月31日まで4年延長するとともに、次の措置が講じられます。

(1)住宅の取得等をして令和4年から令和7年までの間に居住の用に供した場合の住宅借入金等の年末残高の限度額(借入限度額)、控除率及び控除期間を次のとおりとします。

(注)認定住宅とは、認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいいます。

(2)令和4年1月1日以後居住の用に供した場合において、適用対象者の所得要件を現行の3,000万円以下から2,000万円以下に引き下げます。

(3)個人が取得等した床面積が40㎡以上50㎡未満である住宅の用に供する家屋で令和5年12月31日以前に建築確認を受けたものの新築又は当該家屋で建築後使用されたものの取得についても、本特例の適用ができることとされます。ただし、その者の控除期間のうち、その年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円を超える年については、適用されません。

3.居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除等の延長

 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除等の適用期限を2年延長し、令和5年12月31日までとされます。

4.特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除等の延長

 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除等の適用期限を2年延長し、令和5年12月31日までとされます。

5.直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の見直し

 適用期限を令和5年12月31日まで2年延長したうえで、その制度について見直しを行います。

(1)令和4年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金の非課税限度額は、住宅用家屋の取得等に係る契約の締結時期にかかわらず、住宅取得等資金の贈与を受けて新築等をした次に掲げる住宅用家屋の区分に応じ、それぞれ次に定める金額とされます。

(2)令和4年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金の特例の適用対象となる既存住宅用家屋の要件について、築年数要件を廃止するとともに、新耐震基準に適合している住宅用家屋(登記簿上の建築日付が昭和57年1月1日以降の家屋については、新耐震基準に適合している住宅用家屋とみなします。)であることが加えられます。

(3)令和4年4月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税の特例について、受贈者の年齢要件を18歳以上(現行:20歳以上)に引き下げられます。

6.平成21年及び平成22年に土地等の先行取得をした場合の課税の特例

 個人が、平成21年に取得した国内にある土地等を平成27年以降に譲渡した場合又は平成22年中に取得した土地等を平成28年以降に譲渡した場合には、その土地等に係る譲渡所得の金額から1,000万円を控除することができる特例について、その適用期限が到来したため、当該規定は削除されます。

7.商業地等に係る固定資産税の負担調整措置

 令和4年度限りの措置として、商業地等(負担水準が60%未満の土地に限る。)の令和4年度の課税標準額を、令和3年度の課税標準額に令和4年度の評価額の2.5%(現行:5%)を加算した額とされます。(ただし、当該額が、評価額の60%を上回る場合には60%相当額とし、評価額の20%を下回る場合には20%相当額とされます。)

8.非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度の見直し

 法人版事業承継税制においては、後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により猶予された贈与税・相続税が免除されます。この法人版事業承継税制のうち、贈与税・相続税が100%猶予される特例措置は平成30年1月1日から令和9年12月31日までの贈与・相続等に適用されることとされていますが、事前の計画策定等が必要とされています。特例承継計画の提出は、平成30年4月1日から令和5年3月31日までとされていましたが、その提出期限を1年延長し、令和6年3月31日までとされます。

9.上場株式等の配当所得等に係る課税方式の選択に関する見直し

 特定配当等及び特定株式譲渡所得については、平成29年度税制改正により、所得税と個人住民税で異なる課税方式(申告不要制度・総合課税・申告分離課税)を選択できることが明確化されていましたが、令和6年度分以後の個人住民税について、特定配当等及び特定株式譲渡所得金額に係る所得の課税方式を所得税と一致させることとされます。

10.財産債務調書制度の見直し

(1)財産債務調書の提出義務者の見直し

 令和5年分以後の財産債務調書については、現行の財産債務調書の提出義務者のほか、その年の12月31日において有する財産の価額の合計額が10億円以上である居住者が提出義務者とされます。

《現行の財産債務調書の提出義務者》

所得税の確定申告書を提出しなければならない方が、その年分の退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超える場合において、次のいずれかに該当するとき

①その年の12月31日において、その価額の合計額が3億円以上の財産を有する

②その年の12月31日において、その価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産(有価証券等)を有する

(2)財産債務調書等の提出期限の見直し

 令和5年分以後の財産債務調書又は国外財産調書の提出期限について、その年の翌年の6月30日(現行:その年の翌年の3月15日)とされます。

(3)財産債務調書等の記載事項の見直し

 令和5年分以後の財産債務調書への記載を運用上省略することができる「その他の動産の区分に該当する家庭用動産」の取得価額の基準を300万円未満(現行:100万円未満)に引き上げるほか、同年分以後の財産債務調書及び国外財産調書の記載事項について運用上の見直しが行われます。

(文責:税理士法人FP総合研究所)

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