【No773】国税庁における預貯金等照会業務のデジタル化について
令和2年10月から12月まで金融機関と一部の国税局・税務署との間で実施された預貯金等照会業務のデジタル化に向けた実証実験の結果をふまえ、令和3年10月より全国の国税局及び税務署における預貯金等照会業務において、本格的にデジタル化を展開していくことが決定しました。
1. 預金等照会業務に係る現状と課題
現在、行政機関が行う税務調査や資産調査等の際に、金融機関に対して調査対象者に係る預貯金等の照会が行われていますが、書面によるものが年間約6,000万件あり、そのうち、国税庁や税務署が金融機関に対して行っている件数は、全体の1割である600万件に及ぶとされています。
預貯金等照会業務の一般的な業務フローとしては、①調査対象者を選定、②照会に必要な情報を記載した書面を照会先である金融機関に郵送、③金融機関側において回答文書を作成、④金融機関から書面が郵送で返送されることとなります。
このような膨大な量の書面による照会業務により、金融機関においては照会内容と顧客情報の照らし合わせの確認作業や、回答を書面で作成し郵送する作業などに人的リソースを割く必要もあり、業務が煩雑化し負担が多大に生じています。
また、行政機関側においても、金融機関からの回答が長期化した場合には情報把握の遅延により業務に支障・停滞が発生する恐れや、照会文書の作成や回答文書の開封・データ化作業などによって業務負担が多大に生じていると考えられています。さらには、照会業務について金融機関から一定の費用負担を求められる場合もあります。
このような照会・回答業務の人手による作業をデジタル化することで、作業の省力化・迅速化が図られ、照会する側及び回答する側の双方の立場における多くの課題が解決すると期待されています。
2. 実証実験結果と今後の方向性
昨年に実施された2か月間の実証実験においては、①デジタル化による業務効率化効果及び費用対効果、②デジタル化に対応した事務フローの環境テスト等を検証するため、金融機関4行と東京国税局・仙台国税局・神奈川県と福島県内の税務署との間でオンラインによる照会・回答が実施され、下の表のような結果が得られました。
実証実験と同じ期間中における書面照会の平均回答日数は11.3日であったことから、オンライン照会の平均回答日数が2.5日と大幅に短縮されたとともに、回答を書面で受領した際のデータ入力作業が不要となったことで大きく業務効率化が図れる結果となりました。これら一定の業務効率化効果が確認されたことから、令和3年10月より全国の国税局・税務署でオンライン照会が稼働される予定となっています。なお、当該デジタル化に際しては、民間事業者である株式会社NTTデータが提供するサービス「pipitLINQ®(読み:ピピットリンク)」を介して実施されることとなっており、令和2年12月25日に閣議決定された「デジタル・ガバメント実行計画」に掲げられている「金融機関×行政機関の情報連携(預貯金等の照会)」を通じた行政手続のデジタル化を実現すべく、当該サービスは令和3年度末までに100の金融機関及び300の自治体への導入が目指されています。
今回決定された預貯金等照会業務のデジタル化を始めとして、マイナンバー利用による情報の一元管理等も進んでいくことが予想されますので、個人の様々な情報が行政機関により迅速かつ的確に把握される時代に変わりつつあることを認識しておくことが重要だと考えられます。
(文責:税理士法人FP総合研究所)