【No767】土地の評価で見落としがちな減額要素 ①市街地農地等の評価における宅地造成費

 土地の相続税評価については、財産評価基本通達において様々な減額要素が設けられています。財産評価においては、これらの減額要素を漏れなく適用することが大切です。今回は市街地農地等の評価に係る宅地造成費について解説します。

1.市街地農地等の評価方法

 市街地農地等は、宅地比準方式又は倍率方式のいずれかの方法で評価することになります。宅地比準方式の場合、その農地等が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額から、その農地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる1㎡当たりの造成費に相当する金額として、整地、土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて評価します。

(その農地等が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額-1㎡当たりの造成費)

 宅地造成費の金額は、平坦地と傾斜地の区分により、各年分において、都道府県別に定められています。

2.平坦地の宅地造成費

 平坦地の宅地造成費は、以下の工事費目ごとに1㎡当たりの造成費が定められています。

(平坦地の宅地造成費 東京都・令和2年分)

(平坦地の宅地造成費 大阪府・令和2年分)

(1)「整地費」とは、①凹凸がある土地の地面を地ならしするための工事費又は②土盛工事を要する土地について、土盛工事をした後の地面を地ならしするための工事費をいいます。

(2)「伐採・抜根費」とは、樹木が生育している土地について、樹木を伐採し、根等を除去するための工事費をいいます。整地工事によって樹木を除去できる場合は、造成費に「伐採・抜根費」は含めません。

(3)「地盤改良費」とは、湿田など軟弱な表土で覆われた土地の宅地造成に当たり、地盤を安定させるための工事費をいいます。

(4)「土盛費」とは、道路よりも低い位置にある土地について、宅地として利用できる高さ(原則として道路面)まで搬入した土砂で埋め立て、地上げする場合の工事費をいいます。

(5)「土止費」とは、道路よりも低い位置にある土地について、宅地として利用できる高さ(原則として道路面)まで地上げする場合に、土盛りした土砂の流出や崩壊を防止するために構築する擁壁工事費をいいます。

3.傾斜地の宅地造成費

 傾斜地の宅地造成費の金額は、整地費、土盛費、土止費の宅地造成に要するすべての費用を含めて算定したものです。なお、この金額には伐採・抜根費は含まれていないことから、伐採・抜根を要する土地については、「平坦地の宅地造成費」の「伐採・抜根費」の金額をもとに算出し、加算します。

 傾斜度3度以下の土地については、「平坦地の宅地造成費」により計算します。

 また、傾斜度については、原則として、測定する起点は評価する土地に最も近い道路面の高さとし、傾斜の頂点(最下点)は、評価する土地の頂点(最下点)が奥行距離の最も長い地点にあるものとして判定します。

(傾斜地の宅地造成費 東京都・令和2年分)

(傾斜地の宅地造成費 大阪府・令和2年分)

 なお、宅地であるとした場合の価額から、宅地造成費に相当する金額を控除して評価した価額が、近隣の純農地等に比準して評価した価額を下回る場合には、経済合理性の観点から宅地への転用が見込めない市街地農地等に該当するため、その市街地農地等の価額は、近隣の純農地等に比準して評価します。

4.遺産分割と宅地造成費

 土地の評価においては、遺産分割の方法も評価額に影響を及ぼす場合があります。

 宅地造成費のうち、土止費を算出する場合においても土地の評価単位ごとに擁壁が必要な部分を計算します。そのため、遺産分割の方法によって、土地の評価単位が異なることとなれば、造成費の金額も異なることとなります。

《設例》

 相続財産である農地Aと農地Bを評価する場合、次の2つの遺産分割の方法によるときにおいて、宅地造成費はどのように計算することとなるでしょうか。

 分割案①:農地Aと農地Bを長男が相続する

 分割案②:農地Aを長男が、農地Bを二男が相続する

   ※1㎡当たりの土止費 67,600円とする。

   ※道路との高低差は1mである。

(分割案①の場合)

 農地Aと農地Bは1つの利用単位を構成するものであり、遺産分割による取得者も長男単独であることから、農地Aと農地Bは一体で評価することとなります。

 そのため、土止めが必要となる部分は道路を除く3面となります。

  土止めを要する擁壁の面積 (20m+40m+20m)×1m=80㎡

  土止費           80㎡×67,600円=5,408,000円

 

(分割案②の場合)

 農地Aは長男、農地Bは二男がそれぞれ取得するため、取得者ごとに評価することとなります。そのため、必要とする擁壁も評価単位ごとに判定し、農地Aについて道路を除く3面、農地Bについて道路を除く3面となります。

 農地A

  土止めを要する擁壁の面積 (20m+20m+20m)×1m=60㎡

  土止費           60㎡×67,600円=4,056,000円

 農地B

  土止めを要する擁壁の面積 (20m+20m+20m)×1m=60㎡

  土止費           60㎡×67,600円=4,056,000円

 農地Aと農地Bの土止費の合計           8,112,000円

5.その他

 市街地農地等のうち、生産緑地については、課税時期から買取りの申出をすることができる日までの期間等に応じて、宅地造成費に加えて一定の減額が可能です。(最低でも5%は減額可)。

 また、三大都市圏に所在する面積500㎡以上(三大都市圏以外の場合は1,000㎡以上)の市街地農地等で、路線価図の地区区分や容積率等の要件を満たせば、宅地造成費に加えて規模格差補正率を乗じて評価することができます。

(文責:税理士法人FP総合研究所)