【No735】遺留分侵害額の請求による影響~代物弁済による場合~
国税庁のホームページに記載している質疑応答事例が11月25日更新されました。この質疑応答事例の中から民法改正による遺留分侵害額の請求について代物弁済がされた場合の記載がありましたので、この内容についてご紹介します。
1. 事例
被相続人甲(令和元年8月1日相続開始)の相続人は、長男乙及び長女丙の2名です。長男乙は被相続人甲の遺産のうちA宅地(特定居住用宅地等)及びB宅地(特定事業用宅地等)を遺贈により取得し、相続税の申告に当たってこれらの宅地について小規模宅地等の特例を適用して期限内に申告しました(小規模宅地等の特例の適用要件はすべて満たしている。)
その後、長女丙から遺留分侵害額の請求がなされ、家庭裁判所の調停の結果、長男乙は長女丙に対し遺留分侵害額に相当する金銭を支払うこととなりましたが、長男乙はこれに代えてB宅地の所有権を長女丙に移転させました(移転は相続税の申告期限後に実施している。)
2. 取扱い
(1)民法改正について
令和元年7月1日以後に開始した相続から、改正前の遺留分減殺請求権の行使によって「物権的効力」が生じるとされていた規定が見直され、遺留分に関する権利の行使によって遺留分侵害額に相当する「金銭債権」が生じることとされました。
(2)長男乙の取扱い
① 小規模宅地等の特例について
遺留分侵害額の請求を受けて長男乙がB宅地を保有しなくなったのは相続税の申告期限後であることから、長男乙がB宅地を遺贈により取得し、相続税の申告期限まで所有継続及び事業継続している場合には、長男乙はB宅地についての小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。なお、長男乙は遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したことにより、これが生じたことを知った日の翌日から4月以内に、相続税の更正の請求をすることができます。
② 譲渡所得
長男乙が、遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払いに代えてB宅地を移転した場合には、その履行により消滅した債務の額に相当する価額によって譲渡があったものとして取り扱われます。これにより含み益が生じていた場合には、譲渡所得に対して所有期間5年超のときは、所得税15%及び住民税5%又は所有期間5年以下のときは、所得税30%及び住民税9%が課税されます。なお、一定要件を満たす場合には、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例を適用することができます。
③ 国民健康保険料(後期高齢者医療保険料)
長男乙はB宅地を消滅した債務の額に相当する価額によって譲渡したと取り扱われることから国民健康保険(後期高齢者医療保険)に加入していた場合には、譲渡年の翌年の保険料(後期高齢者医療保険の場合、医療費の負担割合も増加する可能性があります。)が増加する可能性があります。(注)社会保険に加入されている場合は、保険料に影響しません。
④ 配偶者控除(所得税)
長男乙はB宅地を消滅した債務の額に相当する価額によって譲渡があったものとして取り扱われることから、長男乙の合計所得金額が1,000万円を超える場合には、その譲渡年については配偶者控除を適用することができなくなります。
(3)長女丙の取扱い
① 小規模宅地等の特例
遺留分侵害額の請求を受けて長女丙は長男乙からB宅地の所有権の移転を受けていますが、これは長男乙が遺留分侵害額に相当する金銭を支払うために長女丙にB宅地を譲渡したものと考えられ、長女丙はB宅地を相続又は遺贈により取得したわけではないので、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。なお、長女丙は遺留分侵害額に相当する金銭を取得したものとして、相続税の修正申告をすることができます。
② 不動産取得税
長女丙が被相続人甲からB宅地を相続又は遺贈により取得した場合は、不動産取得税はかかりませんが、長女丙は相続又は遺贈により取得したわけではないので、課税標準(固定資産税評価額の1/2)に3%の不動産取得税がかかります。
③ 登録免許税
長女丙が被相続人甲からB宅地を相続又は遺贈により取得した場合は、名義変更に係る登録免許税は固定資産税評価額の0.4%ですが、長女丙は相続又は遺贈により取得したわけではないので、固定資産税評価額の2%の登録免許税がかかります。
(担当:吉留 佑)