【No729】不動産を物納する場合の留意点

 相続税の納税方法は、原則「金銭一時納付」となりますが、金銭一時納付が困難な場合は「延納(分割払い)」による納付が、延納が困難な場合は「物納」による納付が認められています。今回は不動産を物納する際の留意点についてご説明します。

1.物納劣後財産と管理処分不適格

 「物納劣後財産」とは、他に適当な財産がある場合には物納に充てることができない財産をいいます。

 例えば、次のような財産が物納劣後財産に該当します。

(1)地上権、永小作権若しくは耕作を目的とする賃借権、地役権が設定されている土地

(管理処分不適格財産に該当するものは除かれます。)

(2)違法建築による建物及びその敷地

(3)納税義務者の居住の用又は事業の用に供されている建物及びその敷地

(当該納税義務者が当該建物及び その敷地について物納の許可の申請をする場合は除かれます。)

(4)配偶者居住権の目的となっている建物及びその敷地

(5)建築基準法第43条第1項に規定する道路に2m以上接していない土地

(6)都市計画法第 7 条第 2 項に規定する市街化区域以外の区域にある土地

(宅地として造成することができるものは除かれます。)

(7)法令の規定により建物の建築をすることができない土地

(建物の建築をすることができる面積が著しく狭くなる土地を含みます。)

 

 「管理処分不適格財産」とは、物納に充てることができない財産をいいます。

 例えば、次のような財産が管理処分不適格財産に該当します。

(1)担保権の設定登記がされている土地

抵当権等の目的となっている不動産は物納に充てることができません。

(2)境界が明らかでない土地

物納に充てる土地については、隣地の所有者と境界確定し境界確認書を作成する必要があります。

(3)共有物である不動産

(共有者全員の申請がある場合は物納に充てることができます。)

(4)管理又は処分を行うために要する費用の額がその収納価額と比較して過大となると見込まれる不動産

① 土壌汚染地や廃棄物が埋設されている不動産

② 土留等の設置等、現状を維持するための工事が必要となる不動産

2.その他留意事項

(1)駐車場等を物納財産に充てる場合は、原則として駐車場賃貸借契約の解約が求められます。また、土地上の看板や車止め等の構築物の撤去が求められ可能性があります。

(2)隣地人の庇等が越境している場合は、撤去又は「工作物等の越境の是正に関す確約書」の提出が求められます。

(3)建物を物納申請する場合は、雨漏りがするといったときや壁紙・襖等に破損がある場合は、通常の使用ができる状態に修繕をすることが求められる可能性があります。

(4)貸宅地を物納財産に充てる場合は、賃貸借契約書の写しを提出する必要があるため、賃貸借契約書を整備しておく必要があります。また、敷金や保証金を預かっている場合は事前に賃借人との精算する必要があります。

3.まとめ

 物納の申請件数は減少傾向にあります。これは平成18年の税制改正により物納基準が厳格化された影響が大きいと考えられます。

 しかしながら、申請要件を満たせば物納は可能です。物納申請は相続人ごとに行うため、遺産分割を工夫することにより金銭納付困難事由を満たすことが可能となる場合があります。また、貸宅地については「物納劣後財産」及び「管理処分不適格財産」のいずれにも該当しないため、申請要件を満たせば物納が可能となります。物納を利用して、市場での処分が困難な不動産や査定額が低い不動産の整理を検討してはいかがでしょうか。そのためには、事前に境界確定等の準備を行うことが重要となります。

(担当:大久保 雅之)