【No714】相続と登記による不動産の所有権について
不動産についての所有権は、民法 177 条の規定により、登記をしなければ第三者に対抗することができな いとされています。 そこで、今回は登記による所有権と相続による所有権のいずれが優先されるのか、2 つの事例に基づいてご 説明します。
1.被相続人と相続人が同一不動産をそれぞれ別の譲受人に譲渡した場合
Q.被相続人Xは、Aに不動産を譲渡した後に死亡した。
その後Aが移転登記をする前に、Xの相続人Yは、その不動産をBに
譲渡しBが移転登記をした。
AとBのいずれに不動産の所有権が帰属するか。
A.相続の性質は包括承継のため、Xの財産上の地位をそのままYが引き継ぎます。つまりX=Yと考えます。 この事例は、同一人物から二重譲渡と同じことになりますので、AとBのうち先に登記をした方が不動産の所有権を 取得します。
2.遺産分割協議が成立した不動産を相続していない別の相続人が単有として登記し第三者に譲渡した場合
Q.被相続人Xの相続が発生し、相続人であるYとZの間でY単 有とする遺産分割協議が成立した。 しかし、ZはYが相続登記をする前に土地の所有権の全部に つき自己名義に相続登記をしたうえで、これを第三者・甲に 譲渡し、その移転登記をした。 Yと甲のいずれに不動産の所有権が帰属するか。
A.上記のような場合、まず相続の発生により、いったん土地はYZの(法定相続分での)共有となります。そこで、Yの 持分とZの持分に分けて権利関係を考えます。
(1)Y持分について Y持分の権利は相続によっていったんYに帰属します。ZはY持分については1 回も権利を取得したことのないまったく の無権利者です。 したがって、仮に登記をした場合でも、甲が無権利者ZからY持分を取得することはできません。 よって、譲渡は無効であり、Yは登記なくしてY持分の所有権を第三者に対抗できます。
(2)Z持分について Z持分の権利は相続によっていったんZに帰属します。そこから、実際には遺産分割によりYが取得するはずのところ、 Zが土地のすべてを甲に譲渡したというところが問題になります。 したがって、Z持分については、Y←Z→甲という構図になります。 この場合、甲の善意・悪意を問わず、Yは民法899 条の 2 第 1 項により、法定相続分を超えるZ持分部分については、 登記をしていなかったので、Yは第三者甲に対抗できません。 よってこの事例では、Y持分はY所有、Z持分は甲所有という結論になります。 参考となる民法の条文は以下の2 つです。
民法909 条(遺産の分割の効力)
遺産の分割は、相続開始のときにさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
民法899 条の2 第1 項(共同相続における権利の承継の対抗要件)
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901 条の規定により算定した 相続分(法定相続分のこと)を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗 することができない。
→「次条及び第901条の規定により算定した相続分」とは、相続人が数人ある場合の法定相続分のことです。 よって、特に不動産の相続については、後々のトラブルとならないように、遺産分割確定後すみやかに相続登記をすること をお勧めします。
(担当:江口 明奈)