不動産業・建設業支援

不動産業の概要

 不動産業は他業種に比べて、事業内容が多岐に渡る上に、取引慣行が多い特殊な業種と言えます。具体的には、分譲事業、仲介事業、賃貸事業、管理事業の4つの事業に大別され、それぞれの取引の性質が大きく異なることが特徴です。昨今では、インバウンドよる民泊サービス事業やホテル事業などの新たな分野への進出も増加しており、民泊・ホテル関連事業は新たな事業分野として確立されつつあります。

 また不動産業は、創業初期では1種類から2種類の事業のみを行っている企業が多いですが、事業規模の拡大に伴い、各事業を総合的に展開(総合不動産業)する企業に発展する傾向があります。

【不動産業における事業の内容】

  事業名 内容
1 分譲事業 不動産(土地・建物等)を販売し売却収益を得る事業
分譲マンション、建売住宅、収益物件売却 etc
2 仲介事業 不動産売買・賃貸に係る斡旋による仲介手数料(広告料含む)を得る事業
戸建住宅・共同住宅・オフィス・テナント・駐車場 etc
3 賃貸事業 不動産を賃貸し賃料収入を得る事業
賃貸マンション・アパート、テナントビル、オフィスビル、サブリース etc
4 管理事業 賃貸物件の管理業務による業務手数料を得る事業
ビルマネジメント(BM)、プロパティマネジメント(PM)、アセットマネジメント(AM) etc

不動産業の会計・税務実務の特徴

 不動産業における会計実務で注意すべき点は、不動産業は各種事業毎の会計処理(収益・費用の認識時点等)が異なるため、適正な業績評価を行うためには、まず各事業の内容を理解し、各事業間の関連性や取引上の慣習など不動産業の全体像の把握する必要があります。各事業での収益性や効率性及びキャッシュフローの状況等が異なりますので、各事業別の収益構造等を理解することが、会社全体の財務状況の把握につながります。

 各事業別の会計上の特徴(B/S・P/Lの傾向)は、以下の通りです。

1.分譲事業

B/S  

 

流動資産に大きな金額の販売用不動産(棚卸資産)が計上されるため、総資産が大きくなる(流動比率が高くなる)。

 また、その資金調達として借入金が固定負債(又は流動負債)に計上されるため自己資本比率が下がる。

P/L  

 

販売用不動産の売却により、極端に大きな売上高(及び原価)が計上される。

そのため、季節変動の大きな利益が計上される。

2.仲介事業

B/S  

 

斡旋による手数料ビジネスであるため自ら不動産等の資産を保有する必要がない。

同様に多額の資金調達も必要なく、運転資金で十分である。故に総資産、総資本ともに小さくスリム化される。

P/L  

 

仲介料手数料が売上高として計上され、対応する原価は基本的には人件費が中心となる。

分譲事業に比べると小さな売上高となる。

3.賃貸事業

B/S  

 

固定資産に大きな金額の建物・土地(有形固定資産)が計上されるため、総資産が大きくなる(流動比率が低くなる)。

また、その資金調達として借入金が固定負債に計上されるため自己資本比率が下がる(サブリースの場合は資産を保有しない)。

P/L  

 

家賃収入などの毎月安定した売上高が計上され、対応する費用として減価償却費が計上される。

季節変動の少ない利益が計上される(サブリースの場合は減価償却費の代わりに支払家賃)。

4.管理事業

B/S  

 

委託業務による手数料ビジネスであるため自ら不動産等の資産を保有する必要がない。

同様に多額の資金調達も必要なく、運転資金で十分である。故に総資産、総資本ともに小さくスリム化される。

P/L  

 

管理手数料が売上高として計上され、対応する原価は基本的には人件費が中心となる。

分譲事業に比べると小さな売上高となる。

 また、不動産業の税務実務においては、次のような特徴(=課税上の注意点)があります。特に、消費税の取扱いが他業種に比べて複雑になりますので注意が必要です。

1.各種事業によって収益・費用の計上時期が異なる

2.一件当たりの取引金額が大きい(特に分譲事業)

3.慣習的な取引が多い(取引の実質的内容の把握が必要)

4.交際費の多い業種である

5.印紙を多用する業種である(在庫管理)

6.各種事業における売上高に非課税売上が多く含まれる(特に分譲事業の土地部分の販売高及び賃貸事業の住宅家賃収入)ことから事業年度毎に課税売上割合が変動する

7.土地・建物の取扱いが事業によって異なるため(分譲事業:棚卸資産、賃貸事業:有形固定資産)税務上(法人税法・消費税法)の取扱いも異なった処理となる

 不動産業の会計及び税務の処理にあたっては専門性が求められます。私たちは、このような不動産業の特殊性を踏まえ、経営者の皆様と同じ目線でお手伝いできるよう心がけています。

建設業の概要

 建設業(※1)は、他の製造業に比べて業態が異なります。建設業は個別受注生産の請負業であり、製品受注後に設計し、生産する形態です。個別受注生産はオーダーメイドであるため、比較的工期が長いものが多く、受注から完成引渡しまで1年(会計期間)を超える場合もめずらしくありません。

 このため、会計上は工事進捗部分について、一定の要件を満たせば、工事の完成引渡し前であっても、収益及び費用を計上できる基準が設けられています(工事進行基準、以下「建設業の会計・税務の特徴」参照)。

 また、建設工事は、1つの工事を完成させるために様々な専門的な工事や作業(基礎工事、鉄筋工事、内装工事、外構工事etc)が必要となりますので、専門的な外注業者を多く必要とします。そのため、注文者から工事を請負った元請業者が工事の全部又は一部を下請業者に依頼する、または下請業者がさらに孫請業者に依頼するような形態(重層下請構造)となっています。

※1 建設業とは、元請、下請など建設工事の完成を請け負う業務を指します(建設業法第2条2項)。建設工事とは、土木一式工事と建築一式工事の2種類の一式工事と、大工工事、鉄筋工事、舗装工事など27の専門工事に分かれています(建設業法別表第一)。

建設業の会計・税務実務の特徴

 建設工事、すなわち長期請負工事に関する収益の計上は、従来は工事完成基準又は工事進行基準の選択適用が認められていました(企業会計原則注解(注7))が、2009年4月からは、工事収益総額、工事原価総額、決算日における進捗度の3つを信頼性を持って見積ることができる長期請負工事に関しては、工事進行基準を適用し、この3つの要件を満たさない場合は工事完成基準を適用することとなりました(工事契約に関する会計基準※1)。

 建設業における会計実務では、工事進行基準を適用するために、決算期末における工事進捗度を原価比例法(期末までの実施工事原価/工事原価総額)などの方法により導き出し、それを工事収益総額(請負価格)に乗じることで当期の工事収益を求めます。よって、工事原価の把握を把握すること、すなわち工事原価の管理が非常に重要なポイントとなります。

 工事原価の管理は、工事台帳等を作成し、工事ごとに個別原価計算(材料費、労務費、外注費、経費が原価要素)で行い、各現場で共通して発生する原価を工事間接費として個別工事に配賦しなければなりません。また、原価管理された現場ごとの工事原価は、実行予算などの事前原価計算と比較することで、経営管理に欠かせないものとなります。

 また、建設業における税務実務では、次のような特徴(=課税上の注意点)があります。

1.売上の計上基準(※2)の選択により売上高の計上時期が変わる

2.売上の計上基準(※2)の選択により売上高及び売上原価の額変わる

3.工事台帳の作成の有無及び工事原価における共通費(工事間接費)の配賦基準が問われる

4.外注費と給与の区分が明確でない

5.交際費の多い業種である

6.印紙を多用する業種である(在庫管理)

7.工事原価における消費税計上のタイミング※3

 建設業の会計及び税務の処理にあたっては専門性が求められます。私たちは、このような建設業の特殊性を踏まえ、経営者の皆様と同じ目線でお手伝いできるよう心がけています。

※1 2021年4月1日以降開始事業年度からは、「収益認識基準」に従い以下のような取り扱いとなります。

①履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができる場合

 進捗度に基づき収益を一定期間にわたり認識する(工事進行基準と同様の収益の認識となります)。

②履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができない場合

 一時点で充足される履行義務として、履行義務が充足される時に収益を認識する(工事完成基準と同様の収益の認識となります)。

※2 1998年4月1日以後に締結した請負契約にかかる長期大規模工事には工事進行基準が適用され、その他の工事には①原則的には工事進行基準が適用されるが②引渡基準(工事完成基準)③部分完成基準を適用することも認められる。

 原則として、2018年4月1日以後に終了する事業年度からは、「収益認識に関する会計基準」の適用対象となる取引に限にかぎり、上記※1に準じた方法となります。

※3 請負による役務の提供の場合、物が完成し、その物のすべての引き渡しが完了した日に消費税を計上します。ただし、継続して工事進行基準によって経理している場合には、工事の進捗に応じて消費税を計上することが認められています。